自律的な免疫細胞の増殖により、免疫反応を増強するT細胞の割合が増えることを発見

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2018/08/28 京都大学

ポイント

  1. 様々な加齢関連疾患の共通基盤となる「免疫老化」の実態と機構は、現在まで十分に理解されていない。
  2. 加齢に伴い増加し、炎症性サイトカイン注1)の産生能力が高いCD8 T細胞注2)(CXCR3high naïve phenotype (NP) CD8 T cells)を新たに同定した。
  3. CXCR3high NP CD8 T cellsが体内に増加すると免疫反応を増強することが炎症モデルを用いた解析から明らかになった。
  4. CXCR3high NP CD8 T cellsはヒト末梢血中にも存在し、その割合は個人間で多様であることから、個々人の免疫老化の程度や加齢関連疾患の感受性と関連する可能性が示唆された。

1. 要旨

加藤愛子元大学院生(京都大学CiRA未来生命科学開拓部門)、濵﨑洋子教授(京都大学CiRA同部門)らの研究グループは、加齢に伴い、炎症性サイトカインの産生能力が高いCD8 T細胞が増加することを明らかにしました。 加齢に伴ってT細胞の産生臓器である胸腺が退縮することはよく知られていますが、胸腺退縮に伴ってT細胞の機能がどのように変化するのかは明らかになっていませんでした。今回の研究では、胸腺を除去したマウスの体内では、病原体への感染とは無関係にT細胞が自律的に増殖し、炎症性サイトカインの産生能力が高いCD8 T細胞が増加することが明らかになりました。T細胞が自律的に増殖することで、生涯にわたってT細胞の数を維持することができますが、上記の細胞の割合が相対的に増えることは、加齢に伴う炎症性疾患と関連している可能性があります。
本研究成果は、2018年7月30日に欧州科学誌「European Journal of Immunology」でオンライン公開されました。

2. 研究の背景と結果

免疫系の老化は、易感染性、慢性炎症傾向、自己免疫リスクの増大などを主徴とし、加齢に伴う多様な慢性疾患に共通する基盤要因の一つと考えられていますが、その詳しいメカニズムはよく分かっていません。早期かつ顕著に起こる免疫系の加齢変化の一つがT細胞の産生臓器である「胸腺組織」の退縮であり、小学生ごろをピークとして徐々に胸腺は小さくなり、機能も低下していきます。このため、胸腺で産み出されるT細胞が、免疫細胞の中でも最も加齢の影響を受けると考えられています。 ナイーブ型T細胞注3)の産生は胸腺退縮により徐々に低下するものの、感染非依存性に体内で起こる「恒常性増殖」により、胸腺退縮によるT細胞数の減少はある程度補完され、また私達は感染の度に記憶細胞注4)を体内に残すことができるため、ヒトのT細胞数は比較的高齢まで維持されます。しかしながら、感染がない状態でおこるこの「恒常性増殖」が生涯にわたり継続することによって、T細胞が質的・機能的にどのように変化するのか、またそれが免疫老化とどのように関連しうるのかについてはよく分かっていませんでした。本研究では、成体マウスから胸腺の摘出(Adult thymectomy: ATx)を行うことで恒常性増殖を促進させるマウスモデルを用い、この点を明らかにしました。
解析の結果、恒常性増殖がおこることによって、炎症部位へ遊走するために必要となるケモカイン注5)受容体CXCR3を発現し、インターフェロンγやTNFaなどの炎症性サイトカインの産生能が高いナイーブ型CD8 T細胞(CXCR3high NP CD8 T cells)が体内で増加することが明らかになりました。そして、人為的に炎症を誘発させたマウスモデルへこの細胞を移入したところ、炎症反応が増悪することが明らかになりました(図1)。さらに、健常ヒト末梢血を用いた解析から、ヒトにも同様の細胞が存在し、20-30歳代の比較的若齢であってもその割合には個人差があることが明らかになりました。 以上の結果から、胸腺退縮によるT細胞産生の低下と並行して感染非依存性に体内で自律的にT細胞が増殖する過程において、強力なサイトカイン産生能を有するT細胞が誘導されることが明らかになりました(図3)。加齢に伴いこのような機能的特徴を有する細胞が相対的に増加してくることは、早期胸腺退縮によるナイーブT細胞数の減少を補完し、長期にわたる免疫能の維持に貢献すると共に、中年期以降の炎症傾向の増大やそれに伴う様々な加齢関連疾患の発症や病態に関連する可能性があります。また、CXCR3high NP CD8 T cellsの割合は、個々人の免疫状態を評価するための有効な指標の一つとなる可能性があります。加齢に伴いヒトでも実際に増加するのか、ヒトの様々な疾患で増減は認められないかなど、今後さらなる解析を行っていきたいと考えています。

図1 CXCR3high NP CD8 T細胞の炎症モデルへの移入

・炎症誘導による腫脹を増悪した。

図2 ヒト末梢血の解析

・ 20-30歳代の比較的若齢でも、ナイーブ型の割合、CXCR3陽性分画の割合は個体差が大きい。

・ ナイーブ型の割合とCXCR3highの割合は逆相関する。

図3 まとめ

3. 論文名と著者

  1. 論文名
    CXCR3high CD8+ T cells with naïve phenotype and high capacity for IFN-γ production are generated during homeostatic T-cell proliferation
  2. ジャーナル名
    European Journal of Immunology
  3. 著者
    *Aiko Kato1,2,3, Akifumi Takaori-Kondo2, Nagahiro Minato1, and **Yoko Hamazaki1,3 * 筆頭著者
    ** 責任著者
  4. 著者の所属機関
    1. 京都大学大学院医学研究科 免疫細胞生物学
    2. 京都大学大学院医学研究科 血液・腫瘍内科学
    3. 京都大学iPS細胞研究所 医学研究科 免疫生物学

4. 本研究への支援

本研究は、下記機関より資金的支援を受けて実施されました。

  1. AMED老化機構・制御研究拠点
  2. 日本学術振興会(科研費)
  3. 新学術領域研究「免疫四次元空間ダイナミクス」
  4. 新学術領域研究「ステムセルエイジングから解明する疾患原理」
  5. 武田科学振興財団
  6. iPS細胞研究基金

5. 用語説明

注1)サイトカイン
さまざまな細胞から分泌され、特定の細胞の働きに作用するタンパク質。
注2)CD8 T細胞
感染などによる抗原刺激により細胞傷害性T細胞(ウイルス感染細胞や癌細胞を直接殺傷できるT細胞)に分化するT細胞。
注3)ナイーブ型T細胞
胸腺から産生されたのち体内を循環するT細胞。抗原刺激を未だ受けていない細胞を一般的にこう呼ぶ。高い増殖能を有し、ほぼ無限の未知の抗原に対する反応性を保証する。抗原刺激によって様々な機能を有する(サイトカインを出したり感染細胞を殺したりする)エフェクターT細胞や記憶細胞に分化する。
注4)記憶細胞
最初の感染で産生されたのち長期体内に維持され、2回目以降の感染時に強く早い応答を起こす細胞。ワクチンは人為的に記憶細胞をつくるものである。
注5)ケモカイン
免疫細胞が感染部位など特定の場所に遊走するために必要な因子。

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