高CO2濃度条件下で米の収量を増やす形質を特定

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将来のCO2濃度が上昇した環境に適した多収品種の育成に貢献

2018/08/10 農研機構

農研機構は、水稲の多収品種が持っている籾もみ数を増やす遺伝子を「コシヒカリ」に交配で導入すると、高CO2(二酸化炭素)濃度条件下で収量が大幅に増加することを明らかにしました。今回の研究成果は、将来的に予想されているCO2濃度が上昇した環境に適した多収品種の育成に貢献できます。

概要

大気のCO2(二酸化炭素)濃度は、18世紀後半の産業革命以降から今日に至るまでの約250年間で1.4倍になり、今後も上昇すると予想されています。水稲は、大気CO2濃度が上昇すると、光合成産物1)が増加し、収量や生育が高まることが知られています。しかし、将来の高CO2濃度条件下で、収量を増やすために品種が備えるべき形質は特定されていませんでした。
そこで農研機構は、屋外で高CO2濃度を実現できる開放系大気CO2濃度増加(FACE)実験施設2)を用いて、約50年後を想定した高CO2濃度(現在の約1.5倍)の環境を作り、水稲の多収品種が持っている籾数を増やす遺伝子を「コシヒカリ」に人工交配3)で導入した系統を栽培し、その収量や生育を調べました。その結果、この籾数を増やした系統については、高CO2濃度条件下で増加した光合成産物を大きな穂により多く転流4)できるため、高い収量が得られることを明らかにしました。
多収品種が持つ籾数を増やす遺伝子は、「コシヒカリ」等の既存の品種に人工交配で容易に導入できます。このため、今回の研究成果は、将来的に予想されているCO2濃度が上昇した環境に適した多収品種の育成に貢献できます。

関連情報

予算:農林水産省委託プロジェクト研究「農林水産分野における気候変動の影響評価及び適応技術の開発」

お問い合わせ

研究開発機関責任者

農研機構 九州沖縄農業研究センター所長 大黒 正道

研究担当者

同 水田作研究領域 水田栽培グループ 中野 洋 TEL 0942-52-0670

広報担当者

同 企画部産学連携室長 樽本 祐助 TEL 096-242-7682 FAX 096-242-7543
プレス用E-mail:konarc-press-mail

本資料は、筑波研究学園都市記者会、農政クラブ、農林記者会、農業技術クラブ、九州各県の県政記者クラブ、日本農業新聞九州支所に配付しています。

※農研機構(のうけんきこう)は、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構のコミュニケーションネーム(通称)です。新聞、 TV 等の報道でも当機構の名称としては「農研機構」のご使用をお願い申し上げます。

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詳細情報

研究の社会的背景

大気のCO2濃度は、18世紀後半の産業革命以前には概ね280ppm程度でしたが、それ以降上昇を続け、2015年には400ppmに達し、今後、更に上昇すると予想されています。こういった状況の中で、世界人口は2050年に100億人に達すると予測され、その約半数が主食とする米の多収技術の開発は喫緊の課題となっています。

研究の経緯

水稲において多収を得るためには、光合成を高めて光合成産物を増加させ、これを数多くの籾を持っている穂に効率良く転流させなければなりません。水稲については、大気CO2濃度が上昇すると、光合成産物の増加を介し、収量や生育が高まることが知られています。「タカナリ」等の多収品種は、一般の主食用品種に比べ籾数が多く、大気CO2濃度が上昇すると増収しやすいことが示唆されていました。しかし、このような多収品種は、籾数以外にも、高い光合成能力等の多収に繋がる多数の形質を持っています。このため、大気CO2濃度を増加させた条件において、籾数を増やすことが多収に結びつくのかどうかを正確には判断できていませんでした。
そこで農研機構は、水稲の多収品種が持っている籾数を増やす遺伝子を「コシヒカリ」に人工交配で導入した系統(籾数以外は「コシヒカリ」のままの系統)を高CO2濃度条件下で栽培し、その収量や生育を調べました。

研究の内容・意義

屋外で高CO2濃度を実現できる開放系大気CO2濃度増加(FACE)実験施設(写真1A、B)を用いて、通常大気に比べ、CO2濃度が概ね200ppm程度高い条件を作り、多収品種「タカナリ」が持つ籾数を増やす遺伝子APO15)を「コシヒカリ」に人工交配とDNAマーカー選抜6)で導入した準同質遺伝子置換系統7)「NIL-APO1」(写真1C)を栽培し、その収量や生育を調べました。

  1. 水稲は、品種改良や栽培技術によって籾数を増やしても、その分、登熟歩合8)が低下するため、思うように増収しない場合があります。籾数を増やす遺伝子を持つ「NIL-APO1」はそれを持たない「コシヒカリ」に比べ、通常大気条件下では、籾数が多いため登熟歩合が若干低下し、5%の増収に留まりました(図1A~C)。しかし、高CO2濃度条件下では、籾数が多いにも関わらず登熟歩合が低下せず、16%の増収になりした。
  2. 成熟期の稲体茎部に含まれる光合成産物の非構造性炭水化物(茎部NSC)9)の量は、「NIL-APO1」、「コシヒカリ」とも、光合成が盛んになる高CO2濃度条件下では通常大気条件下に比べ、高まりました(図2A)。しかし、高CO2濃度条件下において両品種・系統を比べると、「NIL-APO1」は「コシヒカリ」に比べ、茎部NSC量が14%低下しました。

以上のことから、高CO2濃度条件下において、「コシヒカリ」では、籾数が限られているため、高CO2濃度により増加した光合成産物が穂に転流できずに茎部に留まりますが、「NIL-APO1」は、籾数が多いため、光合成産物の穂への転流が速やかに進み、顕著な増収に結びつくことが明らかになりました(図2B)。

今後の予定・期待

多収品種「タカナリ」が持つ籾数を増やす遺伝子APO1は、既存の品種に人工交配とDNAマーカー選抜で容易に導入できます。このため、今回の研究成果は、将来的に予想されている大気CO2濃度が上昇した環境に向いた多収品種の育成に貢献できます。
今後、農研機構では、温暖化に伴う気温上昇にも適応した多収品種の育成に向けた研究を進める予定です。

用語の解説

1)光合成産物
植物が光合成によってCO2から作り出すスクロースやデンプン等のことです。

2)開放系大気CO2濃度増加(FACE)実験施設
屋外の囲いのない条件で、今後予想される大気CO2濃度の上昇が農作物に及ぼす影響を調べるための実験施設です。茨城県つくばみらい市に作られたFACE実験施設では高CO2濃度を実現するため、水田に内径17mの正八角形状にCO2が満たされたチューブを設置し、風向きに応じてCO2を放出します。正八角形の区画内のCO2濃度は、約70m離れた位置に設けられた対照区に比べ、概ね200ppm程度高い濃度(約50年後を想定)に制御されます(写真1A、B)。

3)人工交配
新たな品種を育成するための交配を人の手で行うことであり、水稲では、通常、めしべを利用する個体のおしべを温湯で失活させ、別の個体の花粉をめしべに振り掛けることで行います。

4)転流
植物体に含まれる光合成産物等が、器官・組織間で輸送されることであり、水稲では、登熟期に茎や葉に含まれる光合成産物が穂に輸送されます。

5)APO1
穂の枝の数に関与する遺伝子です。「タカナリ」のAPO1を、「コシヒカリ」に導入すると、枝の数が増えて籾の数も増えます。

6) DNAマーカー選抜
交配親の遺伝子(DNA)の塩基配列の違いを目印(マーカー)として、目的とする遺伝子を持った個体を選抜する方法のことです。

7)準同質遺伝子置換系統(NIL)
人工交配により目的とした形質以外をほとんど同じにした系統のことです。

8)登熟歩合
籾実の詰まり具合を示す指標で、全籾数に対する精玄米数の割合のことです。光合成産物の器となる全籾数が多くなっても、不稔籾の発生や粒重の低下等によって1籾当たりに詰まる光合成産物が減少、つまり、登熟歩合が低下し、増収に至らないことがあります。

9)非構造性炭水化物(NSC)
スクロースやデンプン等から構成され、茎葉部に貯められ、スクロースの形で穂に転流し、収量の増加に貢献します。

発表論文

Nakano H. et al. (2017) Sci. Rep. 7: 1827. doi:10.1038/s41598-017-01690-8

参考図

写真1 つくばみらい開放系大気二酸化炭素(CO2)増加(FACE)実験施設(A、B)と供試品種・系統(C)

図1 異なる大気CO2濃度及び品種・系統における精玄米収量(A)及び収量構成要素(B、C)

図2 異なる大気二酸化炭素(CO2)濃度及び品種・系統における成熟期の稲体茎部に含まれる非構造性炭水化物(茎部NSC)量(A)及び高CO2濃度条件下における「NIL-APO1」増収メカニズム(B)

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