CO2を”化学品”に変える脱炭素化技術「人工光合成」

2018/07/05 資源エネルギー庁

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日本は、気候変動問題に関する国際的な枠組み「パリ協定」(サイト内リンクを開く「今さら聞けない『パリ協定』~何が決まったのか?私たちは何をすべきか?~」 参照)を踏まえて、地球温暖化対策と経済成長を両立させながら、2050年までに80%の温室効果ガスの排出削減を目指すことという長期的目標を掲げています。
この高い目標を現実のものとするためには、CO2の排出削減に関する努力を継続することにとどまらず、石油や石炭など「化石燃料」への依存度を引き下げることなどによって、CO2を低減していく「脱炭素化」のための技術の開発が急がれます。そこで、植物がおこなう「光合成」を人の手で実施することで、CO2を低減しようという驚きの研究が進められています。今回は、脱炭素化に向けた技術のひとつ、「人工光合成」について解説します。

日本が誇る触媒技術を活用した「人工光合成」

さまざまな産業分野のうち、CO2を多く排出しているのはどの産業分野でしょう?第1位は、熱を多く使用する「鉄鋼業」(サイト内リンクを開く「水素を使った革新的技術で鉄鋼業の低炭素化に挑戦」 参照)。そして第2位は、プラスチックなど身近な製品の原料を製造する「化学産業」です。日本で1年間に排出されるCO2の約6%が、化学産業に由来しています。
「人工光合成」は、化石燃料からの脱却など、脱炭素化を実現するためのキーテクノロジーです。理科の授業で習ったように、「光合成」とは、植物が、太陽エネルギーを使ってCO2と水から有機物(でんぷん)と酸素を生み出す働きのことです。「人工光合成」はこれを模したもので、CO2と水を原材料に、太陽エネルギーを活用する形で化学品を合成する技術です。

人工光合成の概念
人工光合成と植物の光合成を比較して概念を説明した図です。

人工光合成のプロセス

人工光合成の鍵となるのは、日本が国際的に強みを持つ「触媒技術」です。ここでは特に、プラスチックなどの原料になる「オレフィン」を合成する例について紹介しましょう。
人工光合成では、まず、「光触媒」と呼ばれる、光に反応して特定の化学反応をうながす物質を使います。この光触媒は、太陽光に反応して水を分解し、水素と酸素を作り出します。次に、「分離膜」を通して水素だけを分離し、取り出します。最後に、取り出した水素と、工場などから排出されたCO2とを合わせ、化学合成をうながす「合成触媒」を使ってオレフィンを作ります。

人工光合成によるオレフィンの製造プロセス
人工光合成の具体的な製造プロセスを示した図です。

産学官連携で進む人工光合成の研究開発

この人工光合成技術の実現に向けて、「光触媒」「分離膜」「合成触媒」に関する研究開発がおこなわれています。経済産業省が支援する研究プロジェクトが2012年度から始まっており、2014年度以降は国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)へと引き継がれ、日本を代表する企業、大学、国立研究機関等、産学官の連携により現在も研究が進められています。
特にポイントとなるのは、太陽エネルギーによって水から水素と酸素を作り出す時、どのくらいの効率で作ることができるかという「太陽エネルギー変換効率」です。この人工光合成を工業プロセスの一部として成り立たせるためには、低コストで効率的で大量生産が可能な技術であることが求められます。そのためには、植物の光合成における太陽エネルギー変換効率(一般的に0.2~0.3%と言われます)を大幅に上回る太陽エネルギー変換効率を実現する必要があります。
このため、光触媒については、太陽エネルギー変換効率の向上に向けて新しい光触媒を探したり、実際に触媒を使うための形態にする成型加工技術の研究を進めています。水素と酸素を別々の光触媒で生成する「タンデムセル型光触媒」では、2016年度に植物の光合成の約10倍となる世界最高の太陽エネルギー変換効率3.0%の光触媒を開発。さらに2017年度には、その効率が3.7%に向上しました。今後もさらなる高精度化を進め、最終的には太陽エネルギー変換効率10%を目指します。

タンデムセル型光触媒と太陽エネルギー変換効率の推移
タンデムセル型光触媒の概念図と、太陽エネルギー変換効率の推移を示したグラフです。

また、人工光合成の低コスト化に向け、世界初の技術である「混合粉末型光触媒シート」の開発も同時に進行しています。混合粉末型光触媒シートとは、水に沈めて太陽光をあてると、1枚のシートで水から水素と酸素を生成することができるというもの。人工光合成の実用化に不可欠な大面積化、低コスト化に適しています。このシートの現在の太陽エネルギー変換効率は1.1%ですが、さらなる効率の向上が期待されています。

混合粉末型光触媒シート
混合粉末型光触媒シートの概念図です。

そのほか、太陽光の一部である紫外線しか吸収できないこれまでの光触媒と異なり、可視光線まで吸収する新たな光触媒の材料開発も進んでいます。これまでより多くの太陽光エネルギーを吸収できるため、高い効率で水から水素と酸素を作り出すことができます。

人工光合成でCO2排出量大幅削減&脱炭素化への挑戦

再生可能エネルギーである太陽エネルギーを活用し、さらには工場から出るCO2を原料として使用するこの技術は、化石燃料を使う場合と比較して、基幹化学品の製造プロセスにおける大幅なCO2排出量の削減にとどまらず、CO2を取り込んで炭素化合物としてとどめておくことで大気中のCO2を減らす「CO2の固定化」を通じて脱炭素化の実現に大きく貢献すると期待されています。

人工光合成を実用化した時のプラントイメージ
人工光合成が実用化された場合のプラントイメージを示した図です。

今後も研究を着実に進め、日本発の脱炭素化に向けた技術として世界に先駆けて実用化を果たし、世界の脱炭素化にも役立つことが期待されます。

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