水田域の豪雨被害のリスクを評価する手法を開発

将来の気候変動を見越した減収被害対策・排水計画が可能に

2018/07/05 農研機構

ポイント

水田中心の地域(水田域)等で将来起こりうる、様々な豪雨パターン(雨量と降り方の組合せ)のシミュレーション手法を開発し、加えてその豪雨パターンにより未経験の水田冠水を含む被害を予測し、水稲減収のリスクを評価する手法を開発しました。この手法は、気候変動の影響を考慮した上で、将来の豪雨の降雨強度や発生頻度の変化を推定できるため、将来的にも農地の安全性を高める排水計画の検討に役立ちます。

概要

2015年の鬼怒川決壊や2017年の九州北部豪雨のように、豪雨による水害は様々な地域で発生しており、農業分野においても大きな被害をもたらします。特に水稲では、豪雨による冠水被害が主な減収要因の一つとなっています。さらに今後は気候変動により、豪雨によるリスクが増大すると見込まれています。水田の冠水被害を低減するには早めの排水が効果的であるため、将来のリスクに応じた規模の排水施設の整備や排水計画の策定が重要となります。しかし、将来の気候を正確に予測することは困難なため、精度の良いリスク予測と、それに基づいた適切な対策をとることも難しいのが現状です。
そこで農研機構は、

  • (1) 現在や将来について、特定の地域で発生しうる豪雨の強度と発生頻度を推定する方法の開発
  • (2) (1)の結果を用いて対象とする水田域の冠水被害を予測し、さらにその結果を水稲減収の量(トン)や割合(%)でわかりやすく評価する方法の提案

を行いました。複数の気候変動の予測結果を基に統計的な検討を加えることで、その水田域で起こりうる平均的な被害や最大規模の被害を定量的に推定できることが特徴です。

本手法は全国の水田域に適用でき、農地排水や農村防災に関わる行政部局や民間コンサルタント、土地改良区等が将来的にも安全性の高い排水計画を検討するために役立ちます。また、特定の地域で豪雨の強度と発生頻度を予測できるため、水稲被害リスクの推定だけでなく、農地浸水ハザードマップの作成などにも役立ちます。

<関連情報>
予算:農林水産省委託プロジェクト研究「農林水産分野における気候変動対応のための研究開発(極端現象の増加に係る農業水資源,土地資源及び森林の脆弱性の影響評価)」ならびに同プロジェクト研究「農林水産分野における気候変動対応のための研究開発(豪雨に対応するためのほ場の排水・保水機能活用手法の開発)」

お問い合わせ

研究推進責任者 :
農研機構農村工学研究部門 研究部門長 白谷 栄作

研究担当者 :
農研機構農村工学研究部門 地域資源工学研究領域 池山 和美

広報担当者 :
農研機構農村工学研究部門 広報プランナー 遠藤 和子

詳細情報

開発の社会的背景と経緯

2015年の鬼怒川決壊や2017年の九州北部豪雨のように、豪雨による水害は様々な地域で発生しており、農業分野においても大きな被害をもたらします。我が国の農業の根幹となる水田では、年間平均43万ヘクタールの水害(水田の冠水被害など、図1に例を示す)1)が発生し、多い年では減収等による被害金額が数十億円にも達するなかで、豪雨は主な被害要因の一つとなっています。さらに今後は気候変動の影響で、これまでに経験のない激しい豪雨が発生する可能性が指摘されるなど、豪雨によるリスクが増大すると見込まれています。水田の冠水被害を低減するには早めの排水が効果的なため、将来のリスクに応じた規模の排水施設(排水路や排水ポンプ等)の整備や排水計画2)の策定が被害減少のためには重要となります。
しかし将来の気候を正確に予測することは困難で、予測に用いる気候変動モデルや計算手法等によっても結果が大きく異なるなど、不確実性を含みます。そこで農研機構は、気候変動の不確実性を考慮したうえで、豪雨の雨量強度の変化とそれによるリスクを評価する方法の開発に取り組みました。

開発した手法の内容・特徴

気候変動の影響を反映させた様々な豪雨のシミュレーション法と、その豪雨データを用いて水稲の被害リスクを統計的に評価する手法を開発しました。一連の方法は、大きく次の3ステップで構成されています。また、この手法を石川県加賀三湖地区に適用した評価例を図2に示します。

  • (1) 複数の気候変動の予測結果から豪雨の特徴を調べて、その特徴を反映させて将来起こりうる多数の豪雨をシミュレーションで発生させます。そこから、その地域で発生しうる豪雨の強度と発生頻度を推定します(図2A)。
  • (2) (1)の結果で得られた多数の豪雨を使って、それぞれの豪雨で引き起こされる水田の冠水被害状況を推定し(図2B)、それを基に水稲被害(量や金額)を推定します。
  • (3) 水稲被害の多数の推定結果から、リスクを統計的に評価します(図2C)。
開発した手法の特徴
  • 複数の気候変動の予測結果を基に、現在や将来のある水田域で起こりうる水稲の平均的な被害(50%の確率で発生)や最大規模の被害(10%の確率で発生)を、定量的に推定できます。例えば図2に示した石川県加賀三湖地区(低平部の水田面積:約4,000ha)の例では、最大規模の被害量は現在の2,381トンに対して、21世紀末には3,047トンと、現在の1.28倍になると予測されました。
  • 全国の低平な水田域に適用できます。
  • 水稲被害量は、詳細な実証試験に基づいて調べた冠水条件(水稲の生育段階、水深、冠水期間等)による減収程度の違いを考慮して算定しています(図3)。
今後の予定・期待

本手法は、全国の水田域で、農地排水や防災等に係る行政部局や水利施設管理を担う土地改良区等が、将来的にも安全性の高い排水計画を検討することに役立ちます。
特定地域の豪雨の強度と発生頻度の予測方法は、水稲被害リスクの評価だけでなく、そのリスク評価を応用した農地浸水ハザードマップの作成や、ため池防災や畑地の土壌流亡等の豪雨災害の予測に活用できます。また、農地周辺部を含めた地域における豪雨被害の評価等への活用も期待できます。

用語の解説・注釈

1)年間平均43万ヘクタールの水害
平成17年~26年の全国の平均の延べ面積、ただし風害も含みます。農林水産省大臣官房統計部作物統計より算定。

2)排水計画
現在は、過去の実測データに基づき、農地を含む一定の地域の排水計画では10年~30年に1回程度発生する規模の豪雨をもとに排水量を算出しています。将来、激しい豪雨の頻度が増加すると農地と農業水利施設の浸水被害の危険性が高まります。

3)10年に1回の豪雨(参考図 図2にて使用)
平均すると10年に1回程度発生する規模の豪雨のこと。1回発生すると10年間発生しないという意味ではなく、毎年1/10の確率で発生するという意味です。

4)RCP8.5(温暖化高位参照シナリオ)/(参考図 図2にて使用)
国連の組織である気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が出した第5次報告書(最新)で用いられた気候変動予測シナリオの一つ。2100年における温室効果ガス排出量の最大排出量に相当するシナリオ。

研究担当者

皆川裕樹、池山和美、宮津進、吉田武郎、久保田富次郎、北川巌、増本隆夫

発表論文
  • 皆川ら(2014):長短期降雨特性を備えた豪雨の内部波形の模擬発生法、農業農村工学会論文集、291、pp.147-156.
  • 皆川ら(2016):洪水時の流域管理に向けた水田域の水稲被害推定手法、農業農村工学会論文集、303、pp.271-279.
  • 皆川ら(2018a):気候シナリオの不確実性を反映させた豪雨の確率評価法、農業農村工学会論文集、印刷中
  • 皆川ら(2018b):低平水田域における豪雨排水に関するリスクとその不確実性の評価法、農業農村工学会論文集、印刷中

参考図


図1 冠水した水田(2015.9.10に茨城県の小貝川付近で発生した内水氾濫)と、冠水被害を受けた水稲の様子(水稲冠水試験の結果より)

図2グラフA

図2グラフB

図2グラフC

図2 石川県加賀三湖地区での評価例
A “10年に1回の豪雨3)”の推定強度と発生頻度。現在は平均220mm、最大規模450mmですが、近未来は平均259mm、最大規模560mmと強度が増大しています。
B ある豪雨による、冠水分析の結果。
C 水稲被害リスクの評価結果。
気候変動の予測結果はRCP8.5(温暖化高位参照シナリオ)4)を使用しました。


図3 実証試験に基づいて推定した水稲減収率

冠水が発生したときの水稲の生育時期、水田の水深、冠水の継続時間等の条件によって大きく異なる減収率を尺度の形にまとめることで、条件毎の減収率を容易に推定することができます。