日本の日射量予測が大幅に外れる場合を検出する指標を考案

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太陽光発電の大量導入に向けた日射量予測技術を高度化

2018/06/29 産業技術総合研究所 筑波大学 気象庁 気象研究所

ポイント

  • 日・欧・英・米の気象予測情報を用いて、年5 %のまれな事象を90 %検出できる指標
  • 太陽光発電の発電電力量の予測外れによる極端な電力余剰・不足の回避につながる指標
  • 太陽光発電の大量導入時代における安定的な電力運用への貢献に期待

概要

国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)太陽光発電研究センター【研究センター長 松原 浩司】システム研究チーム 大関 崇 研究チーム長、宇野 史睦 産総研特別研究員は、国立大学法人 筑波大学【学長 永田 恭介】計算科学研究センター 松枝 未遠 助教、気象庁 気象研究所【所長 隈 健一】予報研究部予報第一研究室 山田 芳則 室長と共同で、日射量予測が大幅に外れる事態を検出する「大外し検出指標」を考案した。

日射量予測は、太陽光発電の発電電力量を予測して電力の需給運用するために必要であり、予測が大幅に外れると電力の余剰や不足につながる。今回考案した検出指標は、世界の4つの気象予報機関(日・欧・英・米)が提供する地球全体を予測する全球アンサンブル予測情報を併用して評価した指標で、例えば年数回から十数回しか発生しないような、予測が極端に大きく外れる事態を事前に予測する指標である。この指標は、今後さらに加速していく太陽光発電システムの大量導入時代の電力の安定供給や、効率的な運用への貢献が期待される。

なお、この技術の詳細は、2018年1月19日にReed Elsevier Groupから出版される太陽エネルギー分野の雑誌Solar Energyにオンライン掲載された。

概要図

アンサンブル予測を利用した予測が大きく外れる事態の検出指標の概念図

開発の社会的背景

太陽光発電の発電電力量は天候に左右されるため、日射量予測情報などを利用して発電電力量を予測し、予測された発電電力量や予想される需要に合わせて、水力や火力発電機などの起動停止を計画し(ユニットコミットメント:UC)、太陽光発電の変動による過不足を調整・穴埋めする。しかし、日射量予測情報が大きく外れた場合、この調整用電源に余剰または不足が発生し、需給のバランスがくずれて、停電が起こる可能性がある。現在、電力の需給運用のために決定論的予測(単一の予測情報)が利用されつつあるが、予測が大きく外れる可能性を考慮して、調整用の電源容量に余裕を持たせて運用されているため、より効率的な運用は燃料費削減につながる。そのため、日射量予測の高精度化や大きく外れる事態への対策が喫緊の課題となっている。

研究の経緯

産総研では、気象庁の日射量予測情報の太陽光発電分野への応用、気象予測モデルや機械学習を用いた太陽光発電の出力推定・予測手法の研究開発を行ってきた。電力需給運用においては、その制御を困難にする日射量予測が大きく外れる事態をいかに減らすかが課題となっている。また、日本国内の各種日射量予測は、気象庁の気象予測が基となっていることが多く、気象庁の予測に大きな予測誤差があると、どの予測手法を用いても同じように予測が大きく外れる。そこで、気象庁の日射量予測が大きく外れる事態を予測できる指標の開発に取り組んだ。

なお、この開発の一部は、国立研究開発法人 科学技術振興機構の委託事業 JST/CREST「分散協調型エネルギー管理システム構築のための理論及び基盤技術の創出と融合展開」のサブ課題である「太陽光発電予測に基づく調和型電力系統制御のためのシステム理論構築」(平成27~32年度)」(グラント番号JPMJCR15K1)による支援を受けて行った。

研究の内容

単一の予報機関では予測に偏りが生じるため、今回の指標は日本・欧州・米国・英国の4つの予報機関の日射量予測情報について、最大51個の全球アンサンブル予測(地球全体を同じ時刻に少しずつ異なる条件で予測を複数実施)の標準偏差(アンサンブルスプレッド)を求め、重み付き平均したものを、予測が大きく外れる事態を検出する大外し検出指標とした。この指標は、個々の予報機関のアンサンブル予測が、予測の信頼性情報を含むことを利用したものである。1~6日先のアンサンブル予測を利用し、最大6日前から翌日の日射量予測が大きく外れる事態を事前に検出できるかどうか評価した。

日本国内では、気象庁メソ数値予報モデルの日射量予測値(MSM-PPV)が前日のUCに利用される。過去3年間の東京電力管内のMSM-GPVを対象に、今回考案した検出指標の評価を行った。2015年10月のMSM-GPV(毎日3時間ごとに提供される5㎞四方の平均的な気象予測情報)の日平均予測誤差と、大外し検出指標は統計的に有意な相関係数(0.68)を示した(図1)。同様に、各月で相関係数を評価したところ、大外し検出指標は、特に冬季に予測誤差と高い相関係数を示した。

図1

図1 日別の予測誤差(a)と今回考案した大外し検出指標(b)

図2

図2 ROCカーブを用いた上位5%の1日先予測の大外し検出指標の評価

検出力は12カ月(a)とより検出力が高い冬季5カ月(b)で評価した。各線が図の対角線(点線)よりも左側にある場合(ROCスコア0.5以上)に検出力があることを示す。図a, bの白四角(□)は誤検出率71 %での提案手法(黒線)による的中率を示し、下表は図2aにおける白四角での的中・空振り・見逃し日数を示す。

今回考案した大外し検出指標を、ROCカーブ(的中率と誤検出率でプロットした曲線)とROCスコアを用いて評価した。検出する対象は、MSM-GPVの1日先の予測で、3年間(2014年~2016年)の予測誤差の上位10、5、1 %(それぞれ誤差が大きい方から109、54、10日)の日を対象とした。図2は1日先予測の上位5 %の予測誤差の検出結果を示す。誤検出率を0.71(71 %の確率で誤検出することを許した場合)の場合、上位5 %の大外し検出指標の的中率は、12カ月(図2b)では90 %であり(図2の白抜きの四角参照)、冬季5カ月間(図2b)では96 %であった。この検出指標を、1~6日先予測について評価したところ、個々の予報機関のアンサンブル予測情報だけから大外しを検出した場合よりも、今回考案した指標のように複数の予報機関を利用した場合の方が、より早い時期(最大6日前)でも予想が大きく外れる事態を精度良く検出できることがわかった。

今後の予定

今後は、大外し検出指標を用いた電力需給運用のシミュレーションを行う。これにより、大外しを事前に予測できた場合に、どの程度需給バランスが改善でき、また、予測の信頼性が高い場合の調整用電源の節約などによる経済的な運用が可能となるかなどの評価を行い、今回考案した指標の実用化を目指す。

論文情報

雑誌名:Solar Energy
論文タイトル:A diagnostic for advance detection of forecast busts of regional surface solar radiation using multi-center grand ensemble forecasts.
著者:Fumichika Uno, Hideaki Ohtake, Mio Matsueda, Yoshinori Yamada
掲載日:平成30年1月19日

問い合わせ

国立研究開発法人 産業技術総合研究所
太陽光発電研究センター システムチーム
産総研特別研究員  宇野 史睦

用語の説明

◆アンサンブル予測
アンサンブル予測は、気象予測モデルの不完全性の低減や、確率予測のために開発が進む予測技術の1つであり、予測値としては複数の値を持つ。全球アンサンブル予測は、数値気象予測モデルの初期値に、少しずつ異なる値を数十程度用意し、同じ日、同じ時刻の予測を行ったものを利用した。少しずつ異なる初期値を用いた個々の予測のばらつきが予測の不確実性の多寡を示す。個々の予測のばらつきが大きい、つまり初期値のわずかな違いにより予測結果が大きく変わる場合は予測の信頼性が低く、逆にばらつきが小さい場合は、予測の信頼性が高いことを示す。
◆決定論的予測
1つの初期値で単一の予測のみを行う予測技術であり、アンサンブル予測とは異なり、予測値としては1つのみを持つ。そのため、確率予測などには利用できないが、計算コストが小さいため、より高解像度・高頻度の予測が実施できるメリットがある。
◆メソ数値予報モデル
気象庁が日本全国の気象予測情報を5㎞の格子ごとに提供するために運用している数値予報モデルであり、5 ㎞四方の平均的な気象予測情報を毎日3時間ごとに39時間先まで提供している。
◆ROCカーブ
ROC(Recover Operating Characteristic) 曲線とも言われ、ある指標について閾値(いきち)を変化させたときの的中率・誤検出率からなる曲線であり、的中率に対して誤検出率が上回る、つまり曲線が対角線より左に寄るほどその指標の検出率が高いことを示す。
◆ROCスコア
ROC曲線によってできる下側の面積を示し、完全予測で1.0、ランダム予測で0.5となる。つまり、ROCスコアが0.5以上であればその指標はランダム予測よりも検出力があるとみなされる。
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