伊豆諸島八丈島火山の陸域と海域の噴火活動の詳細な情報を提供

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八丈島火山地質図を刊行

2018/06/28 産業技術総合研究所

ポイント

  • 伊豆諸島の有人の火山島である八丈島とその周辺海域の詳細な火山地質図を作成
  • 過去の噴火履歴やそれによる溶岩などの広がりを表現
  • 将来の噴火への防災・減災に役立つ情報を提供

概要

国立研究開発法人 産業技術総合研究所【理事長 中鉢 良治】(以下「産総研」という)地質調査総合センター 活断層・火山研究部門【研究部門長 桑原 保人】は、東京都伊豆諸島の八丈島とその周辺海域の地質調査の結果をまとめた「八丈島火山地質図」(著者:石塚 治・下司 信夫)を完成させ、2018年5月10日に刊行した。

八丈島は、伊豆諸島の中で2番目に大きな有人島で、活動的な活火山であるが、その噴火記録は江戸時代初期に限られており、その後400年以上にわたって静穏な状況が続いている。今回の八丈島火山地質図の作成により、八丈島火山の陸域と海域の噴火活動の詳細が明らかとなった。特に、噴火記録だけからではほとんど把握できなかった八丈島の西山火山の詳細な噴火履歴が解明されたほか、近隣海域での海底火山の活動についても情報が得られた。今後、噴火推移予測の研究や、防災・減災への取り組みに貢献すると期待される。

概要図

平成30年5月10日刊行の「八丈島火山地質図」

研究の社会的背景

地質図は、地盤や地層の様子を表した図で、資源開発や防災、土木・建設、地球環境対策など幅広い分野で、基礎資料として必要とされる。火山地質図は火山噴出物や噴火口などの分布や、火山噴出物の層序などを表した地質図であり、過去の噴火履歴を探るための学術資料としてや、将来の噴火災害の可能性を評価する資料として重要である。

研究の経緯

八丈島は、南東部の東山火山と、北西部の西山火山の二つの火山体が接合したひょうたん型の火山島である。東山火山と西山火山は、いずれも過去1万年以内に活動したことがある活火山であるが、東山火山の過去1万年間の活動はそれほど活発ではなく、侵食がすすんだ複雑な地形をしている。一方、西山火山は、美しい円すい形をした火山地形から比較的若い活火山であると推測されるが、火山活動の推移や噴火様式の特徴などはこれまでほとんど分かっていなかった。八丈島の主要な市街地や、空港、港湾施設などは西山火山の南東側ふもとのかつての溶岩流の上に整備されている。また、八丈島火山の周辺の海底には、八丈島火山の活動と密接に関連する海底火山が多数分布している。八丈島火山などの海域火山の活動を理解するには、陸域だけではなく海域の噴火履歴をも理解する必要がある。そのため、今回、八丈島火山の陸域と周辺海域の火山活動履歴を網羅した調査を実施した。

研究の内容

八丈島火山を構成する東山火山と西山火山の噴出物の詳細な分布やその層序の地表調査を行うとともに、主な噴出物については炭素14(14C)年代測定により噴火年代を特定した。西山火山は比較的新しい火山体であるが、過去400年以上にわたって噴火がない静穏な時期が経過しているため火山全体が密な植生に覆われていて(図1)、噴出物の分布を地表調査だけで把握することは困難であった。そこで、近年整備されつつある空間分解能の高いデジタル標高マップを活用し、それに基づいた詳細な地表地質調査により、植生に覆われた溶岩流や火口の分布などを詳細に把握することができた。

図1

図1 八丈島東山火山の山腹から見た西山火山

西山火山は過去1万年以内に形成された若い火山で、侵食がほとんど進まず円すい形の美しい火山体が保存されている。また、山体は全体にわたって密な植生に覆われている。西山火山と東山火山との間に広がる低地は西山火山からの溶岩流で覆われ、その上に市街地や八丈島空港などがある。背景には八丈小島火山が見える。

今回、西山火山の地表は約700年前に発生した山頂噴火による溶岩流に広く覆われていることが判明した(図2)。さらに、700年前から400年前にかけての年代を示す複数の溶岩流が、主に西山火山の南東側斜面に噴出していることも明らかになった。これらの複数の噴火割れ目や溶岩流は、現在の八丈島の主要な市街地にも到達していた。八丈島北部の海岸には、これら700~400年前の極めて新しい地形が保存された溶岩が広く分布している(図3)。また、噴出物の特徴から、700年前の噴火では比較的規模の大きな爆発的噴火が発生していたことや、過去1000年以内でも山頂付近での噴火に伴う火砕流が複数回発生していたことなどが明らかになった。西山火山では玄武岩質の溶岩を噴出する比較的穏やかな噴火が予想されているが、今回発見したこれらの爆発的噴火や火砕流の発生実績は、噴火時の火山災害の想定や避難計画の策定など、防災上重要な知見である。

図2

図2 八丈島火山地質図のうち、西山火山の部分
約700年前よりも新しい溶岩についてはそれぞれの分布を図示している。

図3

図3 八丈島の西山火山山麓にみられる縄状溶岩の表面構造を残す溶岩流
およそ700~400年前に噴出したと考えられる。

八丈島のような島嶼とうしょ火山は、海底部分も含めた活動履歴の把握がその噴火活動を理解する上で重要である。今回の八丈島火山地質図作成にあたっては、陸域だけではなく、周辺海域に分布する火山についても反射法地震探査や岩石試料採取、海底観察を行った。その結果も反映させて、陸域と海域では調査方法の違いや、それによる情報の空間分解能の差があるものの、海域から陸域まで一望できる地質図を作成できた(図4)。

西山火山の北西沖には、八丈島火山から15㎞以上にわたって火山列が続いている。海底調査の結果、これらの海底火山には新鮮な溶岩流や火山弾などが分布し、これらの溶岩や火山弾などの化学組成などは、西山火山とほとんど同じであることが判明した。 このことから西山火山の成長過程では、陸上での噴火活動と並行してこれらの海底でも火山活動が起こっていたと考えられる。また、八丈島周辺の海底は広く流紋岩質の軽石で覆われていることが判明した。海底調査から、これらの軽石は、八丈島の北西約25㎞にある海底カルデラの黒瀬西海穴くろせにしかいけつから噴出したことが明らかになった。噴出物の被覆関係などから、西山火山周辺の小型の海底火山の噴火活動や、黒瀬西海穴で発生した大規模な軽石噴火は、いずれも西山火山が成長しつつあった過去1万年以内に発生したと推測される。これら八丈島周辺の海底での火山活動の実態やその年代は、今回の調査によって初めて明らかにされた。

なお、「八丈島火山地質図」のデータは、作成段階から東京都に提供され、八丈島火山ハザードマップ(平成29年5月)の基礎資料となった。

図4

図4 周辺海域の海底火山も含めた火山体の分布を示す火山地質図
八丈島から北西方向に延びる火山列や、黒瀬西海穴カルデラ、ケンケン山などの特徴的な海底火山が表現されている。

今後の予定

「八丈島火山地質図」は、産総研が提携する委託販売先(https://www.gsj.jp/Map/JP/purchase-guid.html)から入手できる。当初は紙による提供となるが、追ってデジタルデータを提供していく(https://www.gsj.jp/Map/JP/volcano.html)。

今後も引き続き、常時観測火山を重点的に未刊行の火山地質図を刊行していき、活火山地域の防災・減災、さらに噴火予測研究への貢献を図っていく。

問い合わせ

国立研究開発法人 産業技術総合研究所
活断層・火山研究部門 火山活動研究グループ
主任研究員  石塚 治

活断層・火山研究部門 大規模噴火研究グループ
研究グループ長  下司 信夫

用語の説明

◆地表調査
地質調査を行う上で最も基本的な事項に位置付けられるもののひとつで、地表を自らの足で歩き、地表で確認できる地学現象を調査すること。
◆炭素14(14C)年代測定
大気中には放射性炭素14原子(以下「炭素14」)が一定量(1兆個につき1個の割合)で含まれている。生物はそれを吸収して生存しているが、生物が死ぬとその時点で吸収を止め、炭素14の壊変(約5,730年の半減期)が始まる。この性質を利用し、炭素14の個数から年代を測定する方法。約6万年前から百年前頃までの試料に有効。
◆海域での反射法地震探査
船舶を用いて海面で地震波あるいは音波を出し、海底下からの反射波をとらえる調査手法で、海底の地下構造が明らかにできる。
◆火山列
複数の火山が一列に並んだ火山群を指し、より規模の大きい火山帯とは区別される。
◆海底カルデラ
海底に認められる噴火でできた巨大なくぼ地状の地形。
◆常時観測火山
気象庁が地震計や傾斜計などで火山活動を24時間体制で監視している火山のこと。全国に111ある活火山(おおむね過去1万年以内に噴火した火山や現在活発な噴気活動のある火山)のうち50火山が選定されている。
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