心不全患者における心血管イベント予測因子をデータマイニング法により解明

2018/06/27 国立循環器病研究センター

国立循環器病研究センター(略称:国循)臨床研究部の福田弘毅医師、北風政史部長らの研究チームは、心不全患者において心疾患発症による入院や死亡などの心血管イベント発生に関係すると考えられる多くのリスク因子について、最新のビッグデータ解析方法の一つである「データマイニング法(注1)」を用いて解析し、心血管イベント予測因子の特定に成功しました。本研究成果は大阪大学産業科学研究所知能推論研究分野の鷲尾隆教授、北海道大学病院循環器内科の絹川真太郎講師、九州大学病院循環器内科の筒井裕之教授との共同研究によるもので、英国の専門誌「EBIoMedicine」に2018年6月21日(日本時間)に掲載されました。

背景

わが国の死因の第2位は心臓病で、特に高齢化に伴い心不全の患者数は増加傾向にあります。心不全の患者像は、弁膜症や心筋梗塞など原疾患の種類、高血圧や糖尿病など併存疾患の有無、喫煙や運動など生活習慣といった個別要因に影響されるため、非常に多岐にわたります。心血管イベント発生リスクも患者によって大きく異なるので、これまではどのような患者で心血管イベント発生リスクが高いのかの検証も困難でした。

研究手法と成果

福田医師らのチームは、国循と北海道大学病院と九州大学病院で心不全患者を登録し、心血管イベント発症までの期間と患者の臨床因子を調査しました。これらのデータを、データマイニング手法のうち無限次数多重検定法(注2:Limitless arity multiple testing procedure:、以下LAMP法)を用いて解析しました。
LAMP法では年齢や性別、基礎疾患、検査所見、投薬内容など患者因子の組み合わせパターンのうち心血管イベントが発生しやすいものを網羅的に検索します。心不全の予後に影響する可能性がある組み合わせパターンは77,562通り見つかり、そのうち151通りが心血管イベントに有意に関連していることがわかりました。さらにそれらの組み合わせを精査した結果、「強心剤の使用」「利尿剤を使用し、かつ頻脈もしくは助脈を有しない」の2種類の因子が強く心血管イベントの出現に関係すると明らかになりました(表)。さらに、登録患者の追跡調査によりこれらの因子が実際に患者の予後に影響することも確認しました(図)。

今後の展望と課題

現在、ビッグデータ解析は特に自然科学分野で非常に注目を浴びていますが、医療分野ではあまり広く用いられていません。本研究のように多くの心不全患者を対象にした医療ビッグデータを用いた解析手法が進められることで、心不全治療や心血管イベント発症予防につながる新しい発見がなされることが期待されます。
本研究は、以下の研究費により支援されました。

  • 平成26年度厚生労働科学研究委託費(課題番号H26-循環器等実用化-一般-013)
  • 平成27-29年度循環器病研究開発費(課題番号27-1-4)
  • 平成29-31年度厚生労働科学研究委託費(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策実用化研究事業)
<注釈>

(注1)データマイニング法
様々なデータ解析手法を大量のデータに網羅的に適用することで、必要な情報を取り出す手法。これまで、医学の統計解析では解析者の意図や仮説に基づいて調査・解析がなされる傾向があったが、ビッグデータ解析におけるデータマイニング法では従来の手法と異なり解析者の意図等を一切排除して有用なパターンやルールを発見できることから、近年医療ビッグデータ解析の有力な手法として注目されつつある。

(注2)無限次数多重限定法(LAMP法)
2013年に産業技術総合研究所が発見した、誤発見の確率を示す値(p値)の計算手法。p値はある値(一般的には0.05)以下である場合のみ統計的に信頼できるとされ、殆どの医学論文はp値の算出なしには掲載されない。しかし、標本数が多いとp値は上昇傾向にあるため、解析データ数が多いほど新しい発見につながりにくいという問題点があった。
LAMP法では出現頻度の低い組み合わせは誤発見率を変化させないという数理的性質に注目し、出現頻度の低い組み合わせを見つけて排除することで、p値を信頼性の高い値に補正することができる。

<図表>

(表)心不全患者において心血管イベントの出現に強く関与する因子
心血管イベントに有意に関連する因子のうち、「強心剤の使用」を含む臨床因子の組み合わせは145通り、「利尿剤の使用」および「頻脈もしくは徐脈を有しない」の2つの因子を含む組み合わせは6通りであった。

(図)発見された因子の組み合わせと実際の患者の心血管イベント発生確率の関係
(A)強心剤使用の有無による心血管イベント発症の違い。強心剤使用患者群においてより早期に心血管イベントの発生が見られる。(B)利尿剤を使用し、かつ頻脈もしくは徐脈のある患者群とそうでない群の心血管イベント発症の違い。(A)と同様、利尿剤を使用し、かつ頻脈もしくは徐脈のある場合に早期に心血管イベントの発生がみられる。