刃物のようにとがった物体でもつかめる柔軟ロボットハンドを開発

瓦礫でも壊れない高い耐切創性・耐久性を実現

2018/06/14 東北大学 国際レスキューシステム研究機構 科学技術振興機構(JST)
内閣府政策統括官(科学技術・イノベーション担当)

ポイント
  • とがった複雑形状の物体でもつかめる柔軟ロボットハンドを開発。
  • 防刃生地を利用し「耐切創性・耐久性」と「柔軟性」を両立。
  • どんな形でも容易につかめるため、災害現場での瓦礫把持はもとより、工場での作業効率化・生産性向上にも有効。

内閣府総合科学技術・イノベーション会議が主導する革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)タフ・ロボティクス・チャレンジ(プログラム・マネージャー:田所 諭)の一環として、東北大学の多田隈 建二郎 准教授、田所 諭 教授、昆陽 雅司 准教授、藤田 政宏 博士後期課程学生らのグループは、とがった物体、複雑形状物や脆弱物体など、多様な物体をつかめるロボットハンドを新規に開発しました。

とがった物や柔らかい物でも、包み込むことにより容易に把持することができます。ハンドの袋の素材として柔軟な防刃生地を利用することで耐切創性・耐久性と柔軟性を両立し、つかむ対象はもとよりハンド自身を傷つけることなく作業を行うことができます。

これまでの袋状のロボットハンドは、さまざまな形状の物体をつかむことができましたが、とがった物体では袋が破損し、壊れてしまい、耐久性に課題がありました。この成果により、つかめる対象物の範囲が飛躍的に拡大されるため、災害復旧や工場での作業の効率化・迅速化に大きく寄与すると期待されます。

図

本成果は、以下の事業・研究プロジェクトによって得られました。

内閣府 革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)
https://www.jst.go.jp/impact/

プログラム・マネージャー
田所 諭

研究開発プログラム
タフ・ロボティクス・チャレンジ

研究開発課題
極限環境での探査活動能を拡張させる革新的ロボット機構の研究開発

研究開発責任者
多田隈 建二郎

研究期間
平成26年度~平成30年度

この研究開発課題では、極限環境下で探査活動能力を拡張させるロボットのメカニズムの実現に取り組んでいます。

<田所 諭 プログラム・マネージャーのコメント>

ImPACTタフ・ロボティクス・チャレンジは、災害の予防・緊急対応・復旧、人命救助、人道貢献のためのロボットに必要不可欠な、「タフで、へこたれない」さまざまな技術を創り出し、防災における社会的イノベーションとともに、新事業創出による産業的イノベーションを興すことを目的として、プロジェクト研究開発を推進しています。

災害現場では、多様な物体をハンドリングすることが求められます。ジャミング転移現象を活用した膜袋型のロボットハンドは、ソフトロボティクスと呼ばれる新しいロボットメカニズムの研究分野に属し、把持できる形状の範囲が広く、容易に何でもハンドリングできる長所を持つ一方、釘などの鋭利な構造物で簡単に壊れてしまうという問題点がありました。本成果は、この問題を一挙に解決し、膜袋型のロボットハンドの耐久性を飛躍的に高めた発明であり、刃物や鋭利な対象物でも把持が可能になることから、ロボットハンドにおける非連続イノベーションである、と高く評価されます。今後、災害現場での実用性を高めると同時に、工場や建設現場への適用が期待されます。さらに改良が進めば、従来型のグリッパを完全に置き換えてしまう可能性まである、と考えています。

<背景>

災害からの復旧を支援する目的として、作業者の安全を確保しつつ遠隔操作で作業できるロボットが求められています。中でも、ロボットハンドはバルブの開閉や瓦礫の把持・運搬などの直接環境と接触する作業で活躍し、その機能や性能によって作業が可能か否かが決まる重要な要素となります。

そこで本研究グループでは、これまでに形や大きさがまちまちな物でもつかむことができる膜袋型のロボットハンドを開発してきました。ゴム膜の内部に粉体が入っており、押し付けにより物の形状になじませた後に、粉体との間の空気を抜くことで膜を硬くすることができます(ジャミング転移現象)。そのため、複雑な形状や脆弱な物体の損傷を抑えた状態でつかむことが可能になります。

この性能は、工場の生産現場でも有効であり、多品種少量生産で必要な多くの種類の複雑形状の部品をつかみ、組み立てや搬送作業への適用が期待されています。部品に応じてハンドを交換する必要がなく、そのままでさまざまな部品に対応できるからです。

しかし、従来の袋型ハンドはとがった対象物をつかむ際に破れる問題がありました(図1)。そのため、災害時の現場で、破損バルブの開閉(図2)や瓦礫内のガラスの破片、鉄筋の露出した鉄筋コンクリートなどをつかむことはできず、対象物に合わせてハンドを別のものに付け替える必要がありました。

本研究では、瓦礫でも破けない高い耐切創性を持つ袋型ロボットハンドの実現を目指しました。これまでのゴム膜を使用する方法に対して、伸縮性のある防刃生地を使うというアイディアを考案し、柔軟性を保ちながら優れた耐切創性を実現しました。

<研究成果の概要>

ロボットハンドの構造を図3に示します。ハンドは、袋状の柔軟袋と、その袋内に粉体が充填された構造です。物体をつかんだ後に粉体部を真空にすることで、ハンドの剛性が高まります。

この柔剛の切り替え機能は、袋が破けると十分に働かなくなるため、従来のハンドではとがった物体はつかめませんでした。

1.耐切創性に優れた袋構造の考案

そこで、袋表面の材料として、実験も含めて各種素材を時間をかけて検討した結果、柔軟性を維持したまま耐切創性を大きく向上できる防刃生地を使用するという考えに行き着きました。図4に示すように、防刃生地を先端が半球形状となる袋状にし、その表面に滑り止め用のシリコンゴムを塗布した構造の耐切創性カバーを構成しました。柔軟性を維持できる袋の形状、および袋表面へのゴム塗布のパターンと方法が、今回技術的にも非常に困難だったポイントです。

これにより、するどくとがったものに接触したり、刃物で切りつけたりしても袋が破損しない、従来に無い極めて高い耐切創性を持つロボットハンドの実現が可能となりました(図5)。

2.把持実験

以上の袋構造をもとに、とがった物体をつかむ実験を行いました。図6はとがった形状を複数持つ破損したバルブの開閉動作実験です。従来では柔軟なゴム膜がバルブのとがった部分に接触し破損していましたが、今回開発した方式では破損なく開閉作業が行えることを確認しました。

また、図7に示すように、ニッパーを刃先からつかむ実験にも成功しました。

以上のように、このロボットハンドを用いれば、現場での破損したバルブや不定形な割れたガラス類、建築用で飛び出た釘類や鉄条網などの、従来不可能であったとがった・不定形・脆弱軟弱な対象物をつかむことが可能となるものです。

また、グリッパは軽量なため災害対応用ヘビ型ロボットに搭載し、高い剛性が求められるボタン押し、低押付力が必要となるハンドル把持、そして配電盤開けを実現しました(図8)。

このような耐切創性・耐久性の向上は、災害現場はもとより、工場における生産現場における柔軟ロボットハンドの実用性を飛躍的に高めるものであり、今後の広い活用が見込まれます。

本成果は、6月14日に福島ロボットテストフィールドで開かれる「ImPACTタフ・ロボティクス・チャレンジフィールド評価会」において、実機によるデモンストレーションが行われます。

<今後の展開>

今後は、繰り返し使用を考慮した耐久性のさらなる向上など、実用化を目指した研究を進めていきます。そして、3年以内に、実際の瓦礫に近い環境下で実用性の確認を行う予定です。さらに、廃品回収用の産業ロボットメーカなどと協力して、事業化を進める予定です。

<参考図>

図1 とがった物で破けた従来のハンド

図1 とがった物で破けた従来のハンド

図2 破損したバルブの開閉

図2 破損したバルブの開閉

図3 ロボットハンドの構造

図3 ロボットハンドの構造

図4 ゴムコーティング前

ゴムコーティング前

図4 ゴムコーティング後

ゴムコーティング後

図4 耐切創性を持つ布袋の外観

図5 刃物による切り裂き

刃物による切り裂き

図5 刃物による突き刺し

刃物による突き刺し

図5 耐切創性を持つ布袋を被せたロボットハンド

図6 (a)後方から

(a)後方から

図6 (b)前方から

(b)前方から

図6 耐切創性を備えたグリッパ機構による破損してとがったバルブの開閉

図7 ニッパーの刃部からの把持

図7 ニッパーの刃部からの把持

図8 ボタン押し 要 高剛性

ボタン押し
要 高剛性

図8 ボタン押し 要 柔軟性

ハンドル把持
要 柔軟性

図8 配電盤開け

配電盤開け

図8 索状プラットフォームへの採用
<お問い合わせ先>
<研究開発に関すること>

多田隈 建二郎(タダクマ ケンジロウ)
東北大学 大学院情報科学研究科 応用情報科学専攻 准教授

田所 諭(タドコロ サトシ)
東北大学 大学院情報科学研究科 教授

<ImPACT事業に関すること>

内閣府 革新的研究開発推進プログラム担当室

<ImPACTプログラム内容およびPMに関すること>

科学技術振興機構 革新的研究開発推進室

<報道担当>

東北大学 大学院情報科学研究科 広報室

科学技術振興機構 広報課