細胞質に存在するゲノムDNAの断片が遺伝子発現制御に関わることを発見

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生命の新しいバイオロジーを報告

2018/06/06 国立大学法人 東京医科歯科大学 国立研究開発法人 日本医療研究開発機構

ポイント
  • 細胞質内に存在する断片化したゲノムDNAである「細胞質ゲノムDNA(注1)」が、がん細胞ではない正常状態の細胞でも存在することを明らかにしました。
  • 細胞質ゲノムDNAが正常状態の細胞において遺伝子発現制御に関わることを見出しました。
  • 細胞質ゲノムDNAが近傍の細胞に輸送され、輸送先でも遺伝子発現制御に関わることを明らかにしました。

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科脳神経病態学分野(神経内科)の横田隆徳教授と浅田健特任助教の研究グループは、 がんなどの病的状態では知られていたゲノムDNAからのDNA断片の切り出しが、正常状態の細胞においても同様に起こっており、切り出された断片が、細胞質に存在することを発見しました。また、細胞質ゲノムDNAは、自身の細胞の遺伝子発現制御に関わることを見出し、さらには、細胞外小胞(注2)で近隣の細胞に運ばれ、移動先の細胞においても遺伝子発現制御に関わっていることを発見しました。この研究は国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の革新的バイオ医薬品創出基盤技術開発事業「第3世代ヘテロ核酸の開発」の支援によりおこなわれたもので、その研究成果は国際科学誌Scientific Reports(サイエンティフィック・リポーツ)に、2018年6月4日 (英国時間)にオンライン版で発表されました。

図1 核由来の細胞質ゲノムDNAによる遺伝子発現制御機構の詳細(今回の発見)
図1 核由来の細胞質ゲノムDNAによる遺伝子発現制御機構の詳細(今回の発見)

研究の背景

がん細胞やDNA複製に伴う構造的ストレス(3本鎖DNA/RNA形成)やDNA複製阻害剤の処理などにより、細胞質ゲノムDNAの顕著な増加が知られています。当研究室では特定遺伝子を抑制するための汎用性の高い核酸医薬品として、DNA/RNAヘテロ核酸を開発しており、既存のアンチセンス核酸(注3)よりもはるかに高い効果を示すことを報告しています(2015年8月10日にプレスリリース)。我々は、ヘテロ核酸を用いた遺伝子抑制機構の詳細な解析からヒントを得て、細胞自身のゲノム由来である細胞質ゲノムDNAが、アンチセンス核酸として遺伝子発現制御を担うのではないかとの仮説をたて、検証を試みました。

研究成果の概要

細胞質ゲノムDNAは、がん細胞や複製阻害、および紫外線ダメージ等のDNAストレスが原因となって生じることが知られています。我々は、これらの原因がない正常状態に近いとみなすことのできる細胞においても、細胞質ゲノムDNAが存在することを発見しました。また、正常状態の細胞においてもこれまでの報告と同様に、細胞質ゲノムDNAの生成には、RNase HおよびTREX1タンパク質が関与していることを明らかにしました。この細胞質ゲノムDNAの役割を詳細に解析したところ、細胞質ゲノムDNAの一つが細胞増殖に関与する遺伝子のアンチセンス配列に対応することを見出しました。さらに検証を重ねたところ、そのアンチセンス配列となる細胞質ゲノムDNAは、標的遺伝子のRNAに相補的に結合し、タンパク質の発現を抑制することが明らかとなりました。

また、細胞質ゲノムDNAが細胞外小胞に取り込まれて細胞外に放出され、近傍の細胞に輸送されて取り込まれた後に、同様に遺伝子発現制御に関わることも明らかにしました。

研究成果の意義

細胞質ゲノムDNAの生成に関わるRNase HおよびTREX1遺伝子は、自己免疫疾患の全身性エリトマトーデス(SLE)の原因遺伝子として知られています。SLEは、DNAに対する抗体ができることなどが特徴の自己免疫疾患です。がんに細胞質ゲノムDNAが関係していることは知られていましたが、SLEなどの他の疾患とも細胞質ゲノムDNAが関わっている可能性があり、新たな創薬ターゲットになりうると考えられます。今後は他の疾患と細胞質ゲノムDNAの関与について検討していきたいと考えています。

用語説明
(注1)細胞質ゲノムDNA:
核内のゲノムDNAから産生され、1本鎖または2本鎖DNAとして細胞質に存在しているDNAの総称。生成にはRNase HおよびTREX1タンパク質が関わることが知られており、1本鎖細胞質ゲノムDNAは主に100塩基以下、2本鎖細胞質ゲノムDNAは主に100-1,000塩基の長さであることが知られている。
(注2)細胞外小胞:
多くの細胞で分泌されている直径50~150nm程度の膜小胞。内部には細胞質内の、核酸、タンパク質等を含んでおり、近年では、離れた細胞に核酸等を伝達する役割が知られてきている。
(注3)アンチセンス核酸/アンチセンス配列:
ターゲットとなる核酸の配列に対して、相補的な配列を持つ核酸。遺伝子発現を抑制する働きを示すものがあることが知られている。
論文情報
掲載誌:Scientific Reports
論文タイトル:Cytosolic Genomic DNA functions as a Natural Antisense
問い合わせ先
研究に関すること

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
脳神経病態学分野(神経内科)
浅田 健(アサダ ケン)
横田 隆徳(ヨコタ タカノリ)

報道に関すること

東京医科歯科大学 総務部総務秘書課広報係

AMED事業に関すること

国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
創薬戦略部 医薬品研究課
革新的バイオ医薬品創出基盤技術開発事業担当

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