重水素実験における閉じ込め性能の向上

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エネルギー閉じ込め時間の比較実験

2018/06/06 大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 核融合科学研究所

核融合発電を実現するためには、高温のプラズマを磁場で閉じ込め、長時間保持することが必要です。大型ヘリカル装置(LHD)では、高温・高性能なプラズマを生成し、その性質を調べる研究を行っています。平成29年3月より、プラズマの更なる高性能化のために、重水素ガスを用いたプラズマ実験(重水素実験)を開始しました。プラズマの性能を示す指標の一つに、エネルギー閉じ込め時間(以下、「閉じ込め時間」とします)があります。この指標はエネルギーの逃げにくさを表すものです。私たちの身の回りの物を例にとると、魔法瓶は、中から熱が逃げにくいほど、中の物を高温の状態で保持できる(閉じ込めておく)時間が長くなり、より高性能だと言えます。このようにエネルギーの放出が少なく閉じ込め時間が長い状態を、閉じ込め性能が良いと言います。プラズマも閉じ込め性能が良いほど、プラズマ中のエネルギーが逃げにくく、より高性能だと言えるのです。プラズマの閉じ込め性能を向上させることができれば、少ない加熱パワーで高温にしたり、プラズマを閉じ込めるための磁場を弱くしたりすることが可能となり、将来の核融合炉の建設費を抑えることができます。今回は、重水素実験によってプラズマの閉じ込め時間がどのように変化したのか、比較実験の結果を紹介します。

まずは、重水素について説明します。普通、水素とは、原子核に陽子が1個しかない軽水素を指します。重水素は、原子核の中に陽子と中性子が1個ずつあり、軽水素と化学的な性質は同じですが、質量は約2倍です。重水素は、軽水素と同じく、水の中にあります。存在割合は軽水素が99.985%、重水素が0.015%ですが、地球上には膨大な量の水があるので、核融合発電の燃料としての重水素は、ほぼ無尽蔵です。
重水素実験は、LHDより先に、多くのプラズマ実験装置で行われ、重水素プラズマは、軽水素プラズマに比べて、閉じ込め性能が良いことが報告されていました。しかし、これまでの実験は全てトカマク型という方式の装置で行われており、ヘリカル型という方式の装置であるLHDとは、プラズマを閉じ込めるためのコイルの形状が異なります。果たして、ヘリカル型のLHDでも重水素を用いることで閉じ込め性能が向上するのか、平成29年度のプラズマ実験では、軽水素プラズマと重水素プラズマで、閉じ込め時間がどの程度、どのように異なるのかを調べてみました。
プラズマの閉じ込め時間は、プラズマの加熱パワーとプラズマに蓄えられているエネルギーから計測します。これまでに行われた多くのプラズマ実験で得られたデータから、閉じ込め時間はプラズマの密度や磁場の強さ等と関係があり、それらの間には、関係式が成立することが分かっています。このように、従来の多くの実験データから得られた関係式を経験則と呼びます。そこで、過去のヘリカル型の軽水素プラズマの実験データから得られた経験則に基づいて閉じ込め時間を予測し、平成29年度に行った軽水素プラズマ及び重水素プラズマの実験結果と比較しました。プラズマの密度や加熱パワーが異なる様々な場合について比較したところ、軽水素プラズマの閉じ込め時間は、経験則に基づく予測と一致しましたが、重水素プラズマの閉じ込め時間は経験則より、およそ20%程度長いことが明らかになりました。これにより、ヘリカル型のLHDにおいても、軽水素プラズマに比べて、重水素プラズマでは閉じ込め性能が向上することを、はっきりと示すことができました。
重水素を用いると、なぜ閉じ込め性能が向上するのか、その理由はまだ完全には解明されていません。この謎を解く鍵の一つが、プラズマ中に発生する「乱れ」です。乱れは、閉じ込め性能を低下させますが、重水素プラズマでは、軽水素プラズマに比べて、乱れが抑えられることが、スーパーコンピュータを用いた大規模シミュレーションによって示されています(詳しくは、バックナンバー291をご参照ください)。今後は、シミュレーションとの詳細な比較を行うとともに、実験を重ねて閉じ込め性能が向上する理由を明らかにし、更なる閉じ込め性能の向上に結び付けたいと考えています。

以上

図 平成29年度のLHD実験で計測した、軽水素プラズマと重水素プラズマの閉じ込め時間。

図の斜めの点線は、過去のヘリカル型の軽水素プラズマの実験データから得られた経験則に基づく予測を表しています。軽水素プラズマのデータ(青)はほぼ点線上にありますが、重水素プラズマのデータ(赤)が点線より上にあることから、重水素プラズマは閉じ込め性能が向上していることが分かります。

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