テルル化鉛熱電変換材料の新形成法を確立、約2倍の熱電変換性能を実現

ad

未利用熱エネルギーの電力活用による省エネ、CO2排出削減に期待

2018/05/22 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合

NEDOと産業技術総合研究所、未利用熱エネルギー革新的活用技術研究組合(TherMAT)は、テルル化鉛(PbTe)熱電変換材料にゲルマニウム(Ge)を添加した新しいナノ構造形成法を確立し、従来材料と比べて、約2倍の熱電変換性能を実現しました。

この材料の熱電変換性能向上が、自動車や工場など幅広い分野の排熱活用などへ応用され、さらなる未利用熱エネルギーの電力活用が進むことにより、省エネルギーとCO2排出削減につながることが期待されます。

1.概要

1次エネルギーの多くは十分に効率的に利用されておらず、未利用熱エネルギーとして廃棄されています。そのため、この未利用熱エネルギーの有効利用は、省エネルギーとCO2排出削減の重要な柱です。特に、未利用熱エネルギーの電力回収(排熱発電)には高いニーズがあり、熱エネルギーを電力に直接変換できる熱電変換技術には大きな期待が寄せられています。しかしながら、熱電変換技術は、高い変換効率が達成されていないため、その応用分野は宇宙開発など一部に限られていました。これまでNEDOは、「未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発」※1プロジェクトを通じて、熱電変換技術の核となる熱電変換材料※2の高性能化に関する研究開発を進めてきました。

今回、NEDOと産業技術総合研究所、未利用熱エネルギー革新的活用技術研究組合(TherMAT)は、テルル化鉛(PbTe)※3を使用した熱電変換材料の焼結体に、ゲルマニウム(Ge)を添加して、ナノメートルサイズの構造(ナノ構造)の新たな形成法を確立しました。この結果、従来の材料(熱電性能指数(ZT)※4が1.0程度)に比べて、約2倍(ZT=1.9)の熱電変換性能を実現しました。

この材料の熱電変換性能の向上が、自動車・工場など幅広い分野の排熱活用などへ応用され、さらなる未利用熱エネルギーの電力活用が進むことにより、省エネルギーとCO2排出削減につながることが期待されます。

2.今回の成果

熱電変換材料において、熱エネルギーを電力へと効率的に変換するには、まず、電流をよく流すことが必要であり、すなわち、熱電変換材料の電気抵抗率は低い必要があります。さらに、温度差を利用して発電をするために、この温度差を維持するために熱を流さない、すなわち、熱伝導率が低い必要もあります。この二つの要求を満たすために、これまでの研究では電流をよく流し、一方で熱を流さないナノ構造を材料内に形成することが有効であることが示されてきました。

本研究では、アクセプター※5としてナトリウム(Na)を4%添加したp型熱電変換材料※6のPbTeを使用しました。このp型PbTeに、Geを0.7%添加した(化学組成はPb0.953Na0.040Ge0.007Te)ことで、図1(a)と(b)に示す通り、この材料に5nmから300nm程度のナノ構造が形成されていることを世界で初めて示しました。図1(b)の組成分布に示す通り、このナノ構造には、主としてGeとわずかなNaが含まれており、Geの添加がナノ構造の形成を誘起していることがわかります。開発したPbTe熱電変換材料(p型)中に形成したナノ構造のイメージ図

図1 開発したPbTe熱電変換材料(p型)中に形成したナノ構造

このナノ構造は、電流を流して熱を流さないという性質を有するために、530℃でZTは1.9という非常に高い値に達しました(図2)。

開発したPbTe熱電変換材料(p型)とn型素子に用いたPbTe熱電変換材料のZTの温度依存性のイメージ図
図2 開発したPbTe熱電変換材料(p型)とn型素子に用いたPbTe熱電変換材料のZTの温度依存性

3.今後の予定

NEDOは、今回形成したナノ構造を高度化させて、さらに電気をよく流し、一方で熱を流さない熱電変換材料を開発して、さらなる高効率化を目指します。

【注釈】
※1 未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発

小原春彦プロジェクトリーダー(産業技術総合研究所 企画本部 副本部長)のもと、事業期間2013~2022年度(うち2013~2014年度は経済産業省にて実施)で革新的な技術の研究開発を行っています。

※2 熱電変換材料

物質の両端に温度差をつけると起電力が生じる現象をゼーベック効果と呼び、起電力が大きく発電に適した材料を熱電変換材料と呼びます。

※3 テルル化鉛(PbTe)

鉛のテルル化物。化合物半導体として近赤外線の検出器などに使われる他、低い熱伝導率とその電気的物性から熱電変換材料として高い性能が期待されています。

※4 熱電性能指数(ZT)

性能指数Z(1/K)と作動温度T(K)の積で表される無次元の性能指数で、熱電変換材料の性能を評価する指標として広く用いられています。

※5 アクセプター

アクセプターとは、半導体に添加される不純物のことで、半導体中でアクセプターが電子を受け取る事で電荷が正の正孔(ホール)を生成します。アクセプターが多く、正孔が電荷を運ぶ(電流が流れる)半導体をp型半導体と呼びます。

※6 p型熱電変換材料半導体にアクセプターを添加したp型半導体で作成された熱電変換材料。ここでは、熱電変換材料PbTeにアクセプターとしてNaを添加しました。材料の両端に温度差をつけた時、温度が高い方がマイナスになる電圧を発生させる性質を持ちます。なお、温度が高い方がプラスになる電圧を発生させる性質のものをn型熱電材料と呼びます。

4.問い合わせ先
(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)

NEDO 省エネルギー部 担当:近藤、今田

(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)

NEDO 広報部 担当:坂本、髙津佐、藤本

ad

0403電子応用
ad
ad
Follow
ad
タイトルとURLをコピーしました