経頭蓋直流刺激を用いた統合失調症に対する治療効果を世界で初めて発見

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2018/05/21 国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター(NCNP)

国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター(NCNP、東京都小平市 理事長:水澤英洋)精神保健研究所(所長:中込和幸)児童・予防精神医学研究部 住吉太幹 部長および成田瑞(同部研究生)らのグループは、経頭蓋直流電気刺激(transcranial direct current current stimulation, tDCS)の統合失調症に対する治療効果を、近赤外線スペクトロスコピー(near infrared spectroscopy, NIRS)で予測し得ることを、世界で初めて見出しました。
統合失調症は一般人口の約1%が罹患する、原因不明の精神疾患です。主な症状として幻覚や妄想などの精神病症状が挙げられます。
tDCSとは1-2 mA程度の微弱な電流を頭皮上から当てる方式のニューロモデュレーションで、麻酔の必要がなく、副作用のリスクが小さいなどの利点があります(図1)。
本グループは先行研究で、tDCSが統合失調症の精神病症状や認知機能障害を改善することを見出しました。これを受け、本研究ではtDCSによる精神病症状の変化値と、NIRSで測定される酸素化ヘモグロビンの積分値との関連を解析しました。NIRSは、生体組織に対して透過性が高い近赤外光の反射光を測定して血中の酸素化ヘモグロビンを調べ、脳活動を捉える検査です。その結果、左頭頂側頭部の酸素化ヘモグロビン積分値と、精神病症状の変化値の間に、有意な相関が示されました。
今回の研究結果から、ニューロモデュレーションの統合失調症への治療効果において、NIRSで測定される酸素化ヘモグロビンがバイオマーカーとなる可能性が示されました。
これにより、tDCSの効果を事前に予測し、合理的な運用につながると期待されます。
本研究成果は、日本時間2018年5月11日に科学雑誌「Journal of Psychiatric Research」誌オンライン版に掲載されました。

■研究の背景・経緯
統合失調症は幻覚や妄想などの精神病症状により特徴づけられます。抗精神病薬による治療が基本とされていますが、効果のばらつきや副作用の予測がしにくいなどの問題点の改善が望まれています。
tDCSは頭皮上に2つのスポンジ電極を置き、電極間に微弱な電流を流すことで、脳の神経活動を修飾する治療法です(図1)。今までtDCSによる統合失調症の精神病症状に対する効果が示されてきた一方で、その効果を予測する指標は確立されていませんでした。
NIRSは安価かつ低侵襲に脳活動を測定することが可能な検査で、統合失調症の精神病症状との関連が示唆されてきました。そこで、NIRSで測定される脳活動が、tDCSによる統合失調症の症状変化を予測し得るという仮説を立てました。そして治療介入の予測におけるNIRSの活用にもつながると考えられました。

■研究の内容
統合失調症患者26名(女性11名、男性15名)に対し、52チャンネルのNIRSによる、言語流暢性課題を遂行中の脳内における酸素化ヘモグロビンの測定を行いました。その後、tDCSを1回20分、1日2回、5日間施行しました。施行1ヶ月後に、陽性・陰性症状評価尺度(Positive and Negative Syndrome Scale, PANSS)で測定される精神病症状の変化値と、tDCS施行前のNIRSで測定される酸素化ヘモグロビン積分値との相関を解析しました。この結果、左頭頂側頭部に該当するch10の酸素化ヘモグロビン積分値と、陽性症状および陰性症状の変化値との間に、有意な負の相関が示されました(図2)。すなわち、脳の神経活動が大きいほど、tDCSの治療効果も大きいことがわかりました。

■今後の展望
本研究により、tDCSによる統合失調症の精神病症状の改善が、NIRSで測定される脳活動と関連することが初めて示されました。比較的簡便で非侵襲的な脳活動の測定によりtDCSの治療効果が予測できることは、ニューロモデュレーションの合理的な運用につながります。また、NIRSを治療効果の予測に用いることが、薬物療法を含めた医療資源の適正な使用を推進しうることも、今回の研究結果から期待されます。

■用語解説
・ニューロモデュレーション
脳に大きな侵襲を与えずに神経活動を調整し、神経可塑性などを誘導することによって個体の回復力を高め、慢性的な精神症状を緩和する方法です。
・経頭蓋直流電気刺激(tDCS)
頭皮上に設置した電極を通して微弱な電流を流し、脳神経細胞の活動を修飾する方式のニューロモデュレーションです。1回あたりの刺激時間は30分以内と比較的短く、麻酔の必要がなく、副作用のリスクが低いという利点があります。電極の設置部位、施行回数および日数については様々な試みがあります。これまで主にうつ病に対する効果が示されており、抗うつ薬と遜色ない効果を見出した無作為化比較試験もあります。
・近赤外線スペクトロスコピー(NIRS)
生体組織に対して透過性が高い近赤外光 (波長650 nm~900 nm) の反射光を測定して血中の酸素化ヘモグロビン変化量を調べ、脳の活動性を捉える検査です。安価かつ侵襲性が少ない検査のため、臨床応用しやすいという利点があります。
・言語流暢性課題
特定のカテゴリ―(動物など)に属する単語、あるいは、特定の文字で始まる単顔をできる単語を、限られた時間(1分間など)内にできるだけ多く言ってもらう神経心理検査法です。
・陽性・陰性症状評価尺度(Positive and Negative Syndrome Scale, PANSS)
統合失調症の精神病症状(幻覚、妄想や感情の平板化、社会的引きこもりなど)を面接により評価する尺度です。

■参考図

図1
図1 経頭蓋直流電気刺激(tDCS)施行の様子
(a)刺激発生装置、(b)アノード電極、(c)カソード電極、(d)電極固定用ストラップ、(e)ゴムバンド. 国立精神・神経医療研究センターでは、tDCSを用いた精神疾患の治療研究を現在行っています;https://npepjournal.biomedcentral.com/articles/10.1186/s40810-015-0012-x

図2
図2 NIRSによるtDCSの精神病症状改善効果の予測
左頭頂側頭部に設置されたch10の酸素化ヘモグロビンと、陽性症状および陰性症状の変化値との間に負の有意相関あり。即ち基準となるベースラインの脳の神経活動が大きいほどtDCSの治療効果が大きいことを意味する。多重比較の補正を行った上でも有意差が認められた。

【原著論文情報】
<著者>
Narita Z, Noda T, Setoyama S, Sueyoshi K, Inagawa T, Sumiyoshi T.
<論文名>
The effect of transcranial direct current stimulation on psychotic symptoms of schizophrenia is associated with oxy-hemoglobin concentrations in the brain as measured by near-infrared spectroscopy: A pilot study
<掲載誌>
Journal of Psychiatric Research (in press)
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0022395618300177

【助成金】
本研究は、日本学術振興会・科学研究費補助金および国立精神・ 神経医療研究センター精神・神経疾患研究開発費の支援を受けて行われました。

■お問い合わせ先
【研究に関するお問い合わせ先】
住吉 太幹(すみよし とみき)
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所
児童・予防精神医学研究部

【報道に関するお問い合わせ先】
国立研究開発法人
国立精神・神経医療研究センター
総務課 広報係

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