農地の生物多様性を保全するための技術・手法を開発

農地の生物多様性を保全するための技術・手法を開発

管理技術の事例集と水田の調査・評価マニュアルを公開

2018/05/18 農研機構

ポイント

農研機構は、生物多様性1)を保全する農地の管理技術をまとめた事例集を作成しました。また、鳥類などを指標に生物多様性の豊かな水田を判定する新手法を開発し、調査・評価マニュアルとして公開しました。本成果は、農業者や自治体が環境に配慮した農業を実践し、その取組による生物多様性の保全効果を客観的に評価するのに役立ちます。

概要

農業は食料や生活資材を生産するだけでなく、農地やその周辺における生物多様性の保全を含む多面的な機能を有しており、国民全体がその恩恵(生態系サービス2))を知らず知らずに受けています。しかし、農地やその周辺における生物多様性は、使用する農業技術によっては大きく損なわれることもあります。したがって、農業生産と生物多様性の共存共栄を図るためには、生物多様性の保全に有効な農業技術を明らかにするとともに、その効果を科学的に評価する手法を確立する必要があります。
そこで農研機構を中心とする研究グループは、生物多様性を保全する農地(果樹園及び水田)の管理技術として、環境負荷の低い農薬の使用方法や、果樹園での下草管理方法、水田における小水路や畦畔(けいはん)の管理方法を開発しました。また、これらの環境に配慮した取組による生物多様性の保全効果を客観的に評価する方法として、サギ類などを指標に、生物多様性の豊かな水田を判定する新手法を開発しました。この評価法では、指標生物としてサギ類やその餌となる魚類、クモ・昆虫類などを選択し、それらの個体数・種数をもとにスコア化し、総合判定を行います。

本成果は、農業者や自治体が環境に配慮した農業を実践し、その取組による生物多様性の保全効果を客観的に評価するのに役立ちます。また、環境に配慮した農業の生産物であることを科学的に示すことにより、農産物の付加価値の向上、ブランド化に貢献します。

農地の管理技術については事例集を、生物多様性の豊かさを評価する手法については調査・評価マニュアルを公開しました。事例集及びマニュアルは、農研機構のウェブページからダウンロードできます。

関連情報

予算:農林水産省委託プロジェクト研究「生物多様性を活用した安定的農業生産技術の開発」

お問い合わせ

研究推進責任者
農研機構農業環境変動研究センター 所長 渡邊 朋也

研究担当者
農研機構農業環境変動研究センター 生物多様性研究領域 池田 浩明
農研機構果樹茶業研究部門 生産・流通研究領域 三代 浩二

広報担当者
農研機構農業環境変動研究センター 広報プランナー 大浦 典子
農研機構果樹茶業研究部門 果樹連携調整役 和田 雅人

詳細情報

開発の社会的背景と研究の経緯

近年、集約的な農業生産技術の普及や社会環境の変化による、農地やその周辺における生物多様性の損失や、それに伴う生態系サービスの劣化(害虫発生を抑制する天敵や花粉を媒介する昆虫の減少など)が懸念されています。生態系サービスを損なうことなく、持続的な農業生産を実現するためには、生物多様性に配慮した農業の取組を普及する必要があります。そのためのツールとして、農業による生物多様性の保全効果を科学的に評価する手法の開発が急務となっていました。
環境に配慮した農業の取組としては、総合的病害虫・雑草管理(IPM)3)や環境保全型農業4)が知られていますが、具体的にどのような農地管理法が生物多様性を保全する効果が高いのかははっきりと示されていませんでした。また、生物多様性を評価する手法として、これまでにも農業に有用な天敵生物(クモ・昆虫類など)を指標とする評価法を開発し、2012年3月に調査・評価マニュアルを公開していますが、もっと特徴的で見つけやすく、消費者にもなじみがある指標が欲しいという要望もありました。
そこで今回、生物多様性を保全する農地管理技術を事例集として明示するとともに、わかりやすく、認知度の高い生物を用いて生物多様性を評価する新たな指標の開発に取り組みました。

研究開発の意義・内容
  • 果樹園(リンゴ・カンキツ・ナシ)と水田において、農業に有用な生物多様性を保全するための農地管理技術を開発しました。環境負荷の低い農薬の使用方法、果樹園における草生栽培5)などの下草管理方法、水田における小水路設置や畦畔管理方法などの今回開発した管理技術は、実証試験により、生物多様性を保全する効果が高いことが明らかになっています(図1)。
  • 全国規模の調査を元に、サギ類などを用いて水田における生物多様性の豊かさを評価する手法を開発しました。評価の基準となる指標生物として、サギ類またはその餌生物から1種類、クモ・昆虫類から1種類、さらに本田・畦畔の指標植物を選択して調査します。それらの個体数(植物は種数)をスコア化(0点~2点)し、その合計スコアで「非常に良い、良い、やや悪い、悪い」の総合評価を行います(図2)。絶滅危惧種などの希少種が見つかった場合は特典として各指標生物のスコアに1点を加えますが、希少種の調査は必ずしも必要ありません。サギ類は魚や両生類を餌とし、水田生態系の食物連鎖の頂点に位置する生物であるため、生態系の生物全体を把握できる包括的な評価指標と言えます。
  • 生物多様性保全効果の高い農地(果樹園・水田)の管理技術については現場ですぐに活用できる事例集を、生物多様性の豊かさを評価する手法については調査・評価マニュアルをそれぞれ公開しました(図3)。調査・評価マニュアルには、生物の専門家でなくても利用しやすいよう、多数の写真とわかりやすい解説を掲載しています。
今後の予定・期待

本成果は、農業者や自治体が環境に配慮した農業を実践し、その取組による生物多様性の保全効果を客観的に評価するのに役立ちます。また、環境に配慮した農業の生産物であることを科学的・客観的に示すことにより、農産物の付加価値の向上、ブランド化に貢献します。

用語の解説

1)生物多様性
多様な生物がお互いに関わりあいながら存在している状態を表します。単に生物の種数が多いことを指すのではなく、種内の多様性(個体による違い)、種間の多様性(種による違い)及び生態系の多様性(環境の異なる生態系による違い)という3つのレベルで定義される包括的な概念です。

2)生態系サービス
自然が人類に恵みをもたらす生態系の働きを指します。農地やその周辺の生き物がもたらす生態系サービスとしては、作物の受粉を助ける送粉者による送粉サービスや、天敵が害虫の個体数を抑える害虫制御サービスなどがあります。

3)総合的病害虫・雑草管理(IPM:Integrated Pest Management)
病害虫の発生状況に応じて、天敵(生物的防除)や粘着板(物理的防除)等の防除方法を適切に組み合わせ、環境への負荷を低減しつつ、病害虫の発生を抑制する防除技術(農林水産省)。

4)環境保全型農業
農業の持つ物質循環機能を生かし、生産性との調和等に留意しつつ、土づくり等を通じて化学肥料、農薬の使用等による環境負荷の軽減に配慮した持続的な農業(農林水産省)。

5)草生栽培
果樹園において、牧草の播種や自然植生の維持により、地表面が植生で覆われるように下草を管理しながら作物を栽培すること。

発表論文

片山直樹ほか:水田の有機農法がサギ類の採食効率および個体数に与える影響、日本鳥学会誌、64、183-193、2015.

参考図表


図1 農業に有用な生物多様性を保全するナシ圃場の管理技術の例


図2 水田における生物多様性の評価方法(関東地方の例)


図3 本成果による事例集およびマニュアル
(左)農業に有用な生物多様性を保全する圃場管理技術事例集
(右)鳥類に優しい水田がわかる生物多様性の調査・評価マニュアル