前立腺がんを神経様の形態へと悪性化させる因子の発見と診断・治療への応用

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2018/04/24 地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター
国立研究開発法人 日本医療研究開発機構

発表内容の概要

東京都健康長寿医療センター研究所の井上聡研究部長、高山賢一研究員は、従来治療が効かなくなった前立腺がんにおいてより悪性度の高い神経様形態への変化を引き起こし、男性ホルモンであるアンドロゲンの効果を増強する新たな仕組みを見出しました。進行した前立腺がんではホルモン療法注1)によりアンドロゲンの効果を抑制する治療が行われますが、次第に効果が得られなくなることが問題となっています。今回ホルモン療法抵抗性のがんの悪性化の過程における神経様の形態への変化において新たなタンパク質COBLL1(コブルワン)が働く仕組みを発見し、前立腺がんの新しい診断、治療標的となりうることも証明しました。この研究成果は、前立腺がんの今後の治療法の開発や再発・難治化の病態解明に大きく貢献するものと期待されます。本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)の次世代がん医療創生研究事業 (P-CREATE)「がん関連RNA結合タンパク質複合体を標的とした革新的治療法の開発」の支援を受けて行われたものであり、米国科学アカデミー紀要「Proceedings of the National Academy of Sciences of USA(PNAS)」に掲載されるのに先立ち、4月23日の週にオンライン版に発表されます。

研究目的

前立腺がんは欧米およびわが国において男性がかかるがん種として最も患者数の多いものの一つとして、健康長寿を損ねることで大きな課題となっています。進行した前立腺がんにおいては男性ホルモンの作用(図1)を抑えるホルモン療法を行いますが、治療を継続すると薬剤が効かなくなり、再発、難治化して死に至ることが大きな課題となっています。再発においては男性ホルモンの作用が亢進すること、およびより悪性度の高い神経様の細胞の形(図2)の変化が知られていますがその仕組みは不明でした。私たちはより悪性度の高いがんへと進行する際の遺伝子レベルでの変化をシステム的に調べるなかで、脳などの神経の発生に関与する既知の遺伝子群の発現が上昇していること、なかでもCOBLL1の発現の増加は顕著であることを見出しました。COBLL1のがんでの働きは未知でありましたが、悪性度の高い神経細胞様への変化に関与するという仮説を立てて、その仕組みの解明を目的として研究を行いました。

研究成果の概要

まずホルモン療法に耐性を獲得した治療抵抗性のモデル細胞を用いてがん細胞内での分子機能を解析しました。その結果、COBLL1は神経細胞の形態形成においても重要な働きをしているアクチンの重合注2)を促進することでがん細胞形態を形成する過程に深く関わることを見出しました(図2)。さらに細胞の核の中では男性ホルモンのシグナル増強に重要であることを解明しました(図3)。また手術標本を利用しCOBLL1が治療後の再発や生存率を予測する診断マーカーとなることを発見し、動物モデルにおいてはCOBLL1を抑制することによりホルモン療法の効かない難治性の前立腺がんに対して治療効果を示すことも明らかにしました(図4)。

研究の意義

従来の前立腺がんの治療薬はホルモン受容体を抑える働きを利用していますが、ホルモン受容体の異常により薬剤への抵抗性を示し、また神経様の形に変化するがんが出現するため十分とはいえない状況でした。本研究によってCOBLL1という新たなタンパク質により前立腺がんがより悪性化される仕組みが解明されました。

COBLL1によるがんの悪性化や神経様の形の変化の仕組みはこれまで未知であったため、COBLL1を標的とする薬の開発は従来にない方面からのがん治療薬を生み出す可能性が考えられます。

掲載情報
掲載誌

米国科学アカデミー紀要「Proceedings of the National Academy of Sciences of U. S. A.(PNAS)」

掲載論文の英文表題とその和訳および著者

COBLL1 Modulates Cell Morphology and Facilitates Androgen Receptor Genomic Binding in Advanced Prostate Cancer(COBLL1(コブルワン)は進行した前立腺がんにおいて細胞形態を変化させアンドロゲン受容体のゲノムへの結合を促進する)高山 賢一、鈴木 貴、藤村 哲也、高橋 悟、井上 聡*(*責任著者)

用語の説明
注1)ホルモン療法:
男性ホルモンであるアンドロゲンの産生を抑制する、アンドロゲンと受容体との結合を阻害する薬剤などを使用してアンドロゲンの作用を遮断する治療。進行した前立腺がん治療の第一選択となる。
注2)アクチン重合:
タンパク質である球状のアクチンはらせん状に多量体をつくり繊維状となる過程。これにより、細胞骨格が形成される。
参考図

図1.前立腺がんにおける男性ホルモン(アンドロゲン)受容体の役割
図1.前立腺がんにおける男性ホルモン(アンドロゲン)受容体の役割

図2.細胞形態におけるCOBLL1の役割
図2.細胞形態におけるCOBLL1の役割

図3.COBLL1はアンドロゲン受容体を活性化する。
図3.COBLL1はアンドロゲン受容体を活性化する。

図4.COBLL1制御による腫瘍制御効果
図4.COBLL1制御による腫瘍制御効果

問い合わせ先

地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター 研究所
老化制御研究チーム 健康長寿ゲノム探索研究

AMED事業に関する問い合わせ先

国立研究開発法人日本医療研究開発機構
戦略推進部 がん研究課

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