植物が強すぎる光エネルギーを逃がす新たな仕組みが見つかる

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2018/03/20 自然科学研究機構 基礎生物学研究所 神戸大学

植物は、光のエネルギーを利用して二酸化炭素を固定し糖を合成します(光合成)。そのため、強い光のある環境の方が、より光合成を行うことができ植物にとって好ましい環境であると思われがちです。ところが、多くの場合地表に届く光は光合成装置の容量を超えており、直射日光にさらされた植物は危険にさらされています。この危険を避けるため、植物は強い光を浴びたときに、そのエネルギーをわざと逃がす、いわば“ガス抜き”のしくみを発達させました。qEクエンチング(*1)と呼ばれるこの“ガス抜き”のしくみは、環境が変動する中で植物が生き残るために必要なしくみでした。研究グループはこれまでqEクエンチングのしくみをさまざまに研究してきましたが、今回、紫外線の多い環境で育った緑藻を詳しく調べたところ、従来知られていなかった全く新しい仕組みが見つかりました。本研究は基礎生物学研究所の小菅晃太郎大学院生、得津隆太郎助教、皆川純教授らのグループ、神戸大学大学院理学研究科の秋本誠志准教授らのグループ、そして北海道大学低温科学研究所(現日本製粉)の横野牧生研究員からなる共同研究チームによる成果です。本研究成果は米国科学アカデミー紀要に2018年3月19日の週にオンライン先行掲載されます。

【研究の背景】

植物細胞の中には、葉緑体という細胞内小器官(オルガネラ)があります。葉緑体の中にはチラコイドと呼ばれる膜でできた袋構造があり、その表面にはたくさんの光合成装置が並んでいます。ここに光があたると、光合成反応のアクセルが踏まれ電子が流れてATPができます。この電子とATPを使って二酸化炭素を固定し糖分を作る、その一連の反応が『光合成』です。光合成を行う光合成装置は、より多く光を当てると、より光合成を行いますが、実際には強すぎる光を当てると壊れてしまうという厄介な性質があります。この危険を避けるため、強い光を浴びたときには、そのエネルギーを熱に変換してわざと逃がすしくみを植物は発達させました。いわば光合成にブレーキをかけるしくみを備えたのです。一見無駄にみえるこの光合成のブレーキ機構については、現在の光合成研究の大きなテーマの一つになっています。ブレーキ機構の代表的なものに専門的にはqEクエンチング(*1)と呼ばれる仕組みがあります。これは水中の植物である藻類から陸上植物にいたるまでほとんどの植物に備わっていることがわかっており、環境が変動する中で植物が生き残るために必要な機能であったと考えられています。

これまで、光合成反応の中でも、いかに光が集められ、いかに電子が流れ、いかにATPが作られるのか、といった光合成のアクセルに相当する部分のしくみに関してはたくさん研究が行われてきました。しかし、qEクエンチングのように「集めた光エネルギーを逃がす」ブレーキに相当する部分のしくみに関してはまだまだ謎が残されています。今回、従来知られていたものとは全く異なる新たなしくみが見つかりました。

【研究の成果】

研究グループは、単細胞の植物と言うべき緑藻クラミドモナスの葉緑体の中に生産されるLHCSR1タンパク質に注目しました。細胞に強い光を当てた時にLHCSR3タンパク質が合成されqEクエンチングを引き起こすことは知られていましたが、これとよく似たLHCSR1については、その存在こそ知られていたものの、機能についてはよくわかっていませんでした(LHCSR3タンパク質の詳細は2013年5月28日のプレスリリース「過剰な光エネルギーを消去する実体、光合成タンパク質超複合体を発見」、2016年9月9日のプレスリリース「青色光受容体が光合成にブレーキをかけることを発見」を参照)。そこで、まず通常の人工照明ではなく紫外線を含む照明でクラミドモナスを培養しました。その結果、葉緑体に大量にLHCSR1が蓄積され、qEクエンチングがおこることがわかりました(図1)。

fig1.jpg

図1.LHCSR1の蓄積によってqEクエンチングはおこる
npq4(対照株);npq4/lhcsr1(LHCSR1欠失株)

A.LHCSR1の免疫検出。B.ピコ秒蛍光寿命解析(赤:pH5.5, 強光条件相当、青:pH7.5, 弱光条件相当)

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qEクエンチングは、クロロフィルの励起状態が急速に減衰する現象ですが、その過程はクロロフィル蛍光が消光(減衰)する過程として解析することができます。研究グループは、ピコ秒領域での蛍光減衰過程の詳細な解析を行いました。その結果明らかになったのは、蛍光の大きな減衰は光化学系Iで起こっていたことでした(図2)。

fig2.jpg

図2.蛍光の大きな減衰は光化学系Iでおこる

ΔPSI(光化学系I欠損株);ΔPSII(光化学系II欠損株);ΔPSI/II(光化学系IおよびII欠損株)

A-C.ピコ秒蛍光寿命解析(赤:pH5.5, 強光条件相当、青:pH7.5, 弱光条件相当)、
D.欠損株の免疫検証。ΔPSIIのみが光化学系I(PsaA/B)を保持している。

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【本研究の意義と今後の展開】

これまで、qEクエンチングは光化学系IIを取り巻くように存在する集光アンテナ部で起こることがさまざまな研究により明らかとなっています(例えば、2013年5月28日のプレスリリース「過剰な光エネルギーを消去する実体、光合成タンパク質超複合体を発見」を参照)。今回の研究により、「光化学系IIの集光アンテナ部に一度集められた光エネルギーが、LHCSR1によってさらに光化学系Iへと移され、そこで“安全に”使われる(図3)というしくみでもqEクエンチングはおこる」ことがわかりました。紫外線をあてると生産されるタンパク質であるLHCSR1は、光化学系IIから光化学系Iへとエネルギーを橋渡しするタンパク質であるのかもしれません。

fig3.jpg

図3.今回明らかになった強すぎるエネルギーを逃がす仕組みのモデル図

弱光条件時、チラコイド膜内腔は中性条件にあります。このとき、集光アンテナがとらえた光エネルギーは光化学系IIに渡され、光化学系IIで電気化学エネルギーに変換されます。強光条件時はチラコイド膜上に大量の電子が流れ、チラコイド膜内腔は酸性条件になります。これによりLHCSR1は活性化され、以後集光アンテナがとらえた光エネルギーは光化学系Iへと渡されることになります。光化学系Iは、そのエネルギーを蛍光を発さず効率よく電気化学エネルギーに変換します。ただし、もともと育った光の成分の中に紫外線成分がない場合にはLHCSR1は発現しないため、このようなことはおこりません。

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どちらかと言えば脆弱な光化学系IIに強すぎる光が当たる状況においても、もしLHCSR1さえあれば、その過剰な光エネルギーは光化学系Iへと受け渡され、光化学系Iの反応中心で電気化学エネルギーへと安全に変換されます。光化学系IIよりも光化学系Iの方が変換効率の良い光化学系であることは昔からわかっています。今回発見されたしくみは理にかなったしくみであると言えます。

今後は次のような問題にも関心が集まるでしょう。地上には水中よりもむしろ多くの紫外線が降り注ぎます。ところが陸上植物はLHCSR1を持っていません。陸上植物はそれに代わるエネルギーの橋渡しタンパク質があって同様の新しいタイプのqEクエンチングを行っているのでしょうか?もし行っていないとすれば、なぜ行わなくても大丈夫なのでしょうか? まだまだ光合成には謎が残されています。

*1 qEクエンチング:クエンチング(q)とは一般に(火などが)“消える”、(乾きを)“癒やす”などの意味で使われるが、光合成反応においては、光エネルギーを吸収して興奮状態になったクロロフィルが鎮まることを意味する。その際の分子機構の違いにより、qEクエンチング、qTクエンチング、qMクエンチングなどが知られている。qEクエンチングは、光合成装置に電子が流れ葉緑体にエネルギー(E)が与えられたときに生じるフィードバック型のクエンチング。

【掲載誌情報】

雑誌名: Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America米国科学アカデミー紀要(3月19日の週にオンライン先行掲載予定)DOI: 10.1073/pnas.1720574115

論文タイトル: LHCSR1-dependent fluorescence quenching is mediated by excitation energy transfer from LHCII to photosystem I in Chlamydomonas reinhardtii
(クラミドモナスにおけるLHCSR1依存の蛍光消光は、LHCIIから光化学系Iへの励起エネルギー移動によって仲介される。)

著者: Kotaro Kosuge, Ryutaro Tokutsu, Eunchul Kim, Seiji Akimoto, Makio Yokono, Yoshifumi Ueno, and Jun Minagawa

【研究グループ】

基礎生物学研究所の小菅晃太郎大学院生、得津隆太郎助教、皆川純教授らのグループ、神戸大学大学院理学研究科秋本誠志准教授らのグループ、北海道大学低温科学研究所(現日本製粉)の横野牧生研究員からなる共同研究チーム。

【研究サポート】

本研究は、科学研究費補助金新学術領域研究「新光合成:光エネルギー変換システムの再最適化」他のサポートを受けて行われました。

【問い合わせ先】

基礎生物学研究所 環境光生物学研究部門

教授 皆川 純(ミナガワ ジュン)

ホームページ: http://www.nibb.ac.jp/photo/

助教 得津 隆太郎(トクツ リュウタロウ)

神戸大学大学院理学研究科

准教授 秋本 誠志(アキモト セイジ)

【報道担当】

基礎生物学研究所 広報室

神戸大学 総務部広報課

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