事故時の超高温にも耐えるODSフェライト鋼燃料被覆管の開発

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次世代高速炉の安全性向上に向けて

2018/03/09 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構

【発表のポイント】

  • 高速炉で燃焼度を上げることは、効率的なプルトニウム生成及び放射性廃棄物の減容・有害度低減において重要だが、高燃焼に耐えることができる燃料被覆管の開発が不可欠。
  • 原子力機構が開発した酸化物分散強化型(ODS)フェライト鋼燃料被覆管が1000℃を超える事故時高温環境下において、従来の耐熱鋼に比べて約3倍の強度を達成。
  • ODSフェライト鋼は、酸化物分散粒子をナノレベルで分散させるために、一般的な製造方法である溶解法ではなく、合金粉末と酸化物粒子粉末を強制的に機械混合させた後、粉末状のものに強い圧力と熱をかけて固める熱間押出により作製した先進耐熱鋼。
  • この燃料被覆管を高速炉に適用することで、燃料溶融等の過酷事故に至るリスクを低減し、高燃焼を達成できる。また燃料交換の回数を減らすことも可能となり、経済性も向上することが期待される。

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長 児玉敏雄、以下「原子力機構」という)次世代高速炉サイクル研究開発センターは、高温での耐久性向上のため熱的に安定な酸化物粒子をナノレベルで分散させた先進耐熱鋼であるODSフェライト鋼燃料被覆管について、過酷事故時を想定した融点近傍までの超高温強度特性を明らかにしました(図1~3参照)。これにより、事故条件での燃料破損に対する設計裕度評価や炉心損傷に至る過酷事故の未然防止、事象緩和を評価するための重要な知見を得ることが可能になり、高速炉炉心の安全性評価に貢献することが期待されます。

なお、本研究は、文部科学省の原子力システム研究開発事業による委託業務として、国立大学法人北海道大学(総長 名和豊春、以下「北海道大学」という)が実施した平成25~28年度「事故時高温条件での燃料健全性確保のためのODSフェライト鋼燃料被覆管の研究開発」の中で北海道大学からの委託により原子力機構が実施した研究成果の一部です。

本研究成果は国際学術誌「Journal of Nuclear Materials, Volume 487, pp.229-237 (2017)」に掲載されました。

【背景】

高速炉において燃焼度を上げる事は、ブランケットで生成するプルトニウムが増える利点があります。一方で燃焼度が低いと燃料交換の回数が増え、被覆管等の部材や再処理プラント用の部材も含め、広い意味で資源を無駄に使ってしまうこととなります。このため、燃料を長期間使用出来るようにするための高燃焼度燃料の開発は、高速炉の実用化に向けた効率的なプルトニウムの生成や資源有効利用のため重要であり、高速炉を利用した放射性廃棄物の減容・有害度低減にも有効です。これには、高温・中性子照射環境下において寸法や形状の安定性に優れ、高い強度特性を有する燃料被覆管の開発が不可欠です。

原子力機構では、通常運転時及び事故時に最も過酷な環境に晒される燃料被覆管材料として、耐熱性および耐照射性を向上させた酸化物分散強化型(Oxide dispersion strengthened; ODS)フェライト鋼1)の開発を進めています(図1参照)。

図1. 高燃焼度用ODSフェライト鋼燃料被覆管と引張強度試験片

【研究成果】

ODS鋼フェライト鋼燃料被覆管は、一般的な鉄鋼材料を製造する溶解鋳造法(全ての構成元素を溶かして固める)と異なり、酸化物分散粒子を強制的に他の構成元素粉末に固溶2)させ、酸化物粒子の粗大化が生じない温度で高い圧力をかけて粉末を焼結させる熱間押出法により開発した材料です(図2参照)。このODSフェライト鋼燃料被覆管を次世代高速炉燃料へ適用していく上では、通常運転時および異常過渡3)時の強度評価に加えて、燃料溶融事象時等の過酷事故4)時を想定した強度評価が重要な項目の一つとなります。これまでODSフェライト鋼燃料被覆管の通常運転時や異常過渡時の温度範囲である900℃までの材料強度データは取得されていたものの、事故温度に対応する超高温領域(融点近傍)までの強度データ取得に関する報告例はありませんでした。

酸化物分散強化型フェライト鋼の一種である9Cr-ODS鋼燃料被覆管は、従来型の炉心材料と比較して、1200℃という超高温まで優れた高温引張強度5)(約3倍)を維持し、事故時の破損抵抗性が格段に優れていることが明らかになりました(図3参照)。この3倍の強度向上により、燃料被覆管の破損温度を概算で150℃上げることが可能になりました。なお、この優れた高温強度は、状態図計算と微細組織観察結果から、母相が強度の高い相に相変態6)することに加えて、強化因子であるナノスケール(10-9m)の酸化物粒子が微細に分散した状態で安定に存在することによることを明らかにしました。このような1000℃超での優れた強度は、ODSフェライト鋼燃料被覆管が高速炉過酷事故時の厳しい温度条件下においても高い破損抵抗性を有することを示すものです。

本研究では、代表的な高温強度評価項目である引張破断強度について評価を行いましたが、今後はその他の破壊様式(クリープ破断、急速加熱破裂等)を含めて、通常運転時から過酷事故に対応した温度範囲での材料強度データを継続的に取得し、被覆管の健全性を設計評価するための信頼性の高い強度式として取りまとめる必要があります。

図2. ODSフェライト鋼燃料被覆管の製造プロセス例

図3. 9Cr-ODS鋼燃料被覆管の超高温引張強度

【今後の展開】

この9Cr-ODS鋼燃料被覆管を高速炉に適用することにより、燃料溶融等の過酷事故に至るリスクを低減するだけでなく、燃料交換の回数を減らすことも可能となり、経済性も向上することが期待されます。今後、継続的に過酷事故に対応した温度範囲でのデータを取得し、高速炉の安全性を向上させるように努めます。

【論文掲載情報】

雑誌名:Journal of Nuclear Materials, Volume 487, pp.229-237 (2017)

論文タイトル:Ultra-high temperature tensile properties of ODS steel claddings under severe accident conditions

著者:矢野康英(1), 丹野敬嗣(1), 岡弘(1), 大塚智史(1), 井上利彦(1), 加藤章一(1), 古川智弘(1), 上羽智之(1),
皆藤威二(1), 鵜飼重治(2), 大野直子(2), 木村晃彦(3), 林重成(4), 鳥丸忠彦(5)

所属:(1)日本原子力研究開発機構, (2)北海道大学, (3)京都大学, (4)東京工業大学, (5)日本核燃料開発株式会社

【用語解説】

1)酸化物分散強化型フェライト鋼:

中性子照射環境下での寸法安定性に優れるフェライト鋼中に、熱的に安定な酸化物粒子をナノレベル(10-9m)の大きさで分散させることで高温長時間環境下での材料組織を安定化し、機械強度を飛躍的に高めた鉄鋼材料のことである。原子炉や核融合炉等の高温且つ中性子照射環境下で使用される材料として、世界各国で研究開発が進められている。

2)固溶:

金属相に合金元素が溶けて入り込むこと。酸化物粒子は、金属粉末中には溶けないことから、高エネルギーボールミルにより、強制的に入り込ませている。

3)異常過渡:

機器の故障や運転員の誤操作などによってプラントが異常な状態となるような、技術的に十分起こりうる事象であるが、事象が生じた場合でも炉心は損傷に至ることなく、通常運転に復帰できる事象のこと。

4)過酷事故:

設計時に想定していた安全系の設備や操作によって 適切に炉心の冷却や制御ができない状態になり、その結果、炉心の重大な損傷(溶融など)に至る事象のこと。

5)高温引張強度

温度を上げ、その温度に保持した状態で、引っ張られている材料が維持しうる最大応力のこと。この温度で、この応力が負荷され、維持されると破壊が起こることになる。

6)相変態:

物質の結晶構造状態が変化する現象をいう。原子力機構が開発している9Cr-ODS鋼は、耐中性子照射特性の観点から母相をフェライト相(体心立方構造)としているが、約880℃からオーステナイト相(面心立方構造)への相変態が始まり、約960℃で完全にオーステナイト相になる。

7)PNC-FMS

中性子照射環境下での寸法安定性に優れるフェライト鋼として、原子力機構が開発したラッパ管用の鉄鋼材料のことである。

8)PNC316

「常陽」、「もんじゅ」用の燃料被覆管材料として原子力機構が開発した316系オーステナイト鋼のことである。

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2001原子炉システムの設計及び建設
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