卵が先かニワトリが先か

乱流発生・抑制の因果律を調べる

2018/02/21 大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 核融合科学研究所

昨今、日本各地でイノシシなど野生動物の出没がニュースになっています。研究所も周辺の山から出てきたのでしょう、先日もイノシシの親子が目撃されました。イノシシに限らずシカやクマなど山の動物が人間の住む里に現れる頻度が上がっているようです。一説では、山の食べ物が豊かになるとそれを餌とする動物の数が増え、逆に増えすぎると山を荒らして食べ物が減ってしまい動物の数が減る、動物が減ると今度は食べ物が増えて、というような関係性があるのではないかと考えられています。増えた時には里まで溢れて出てきてしまい、その結果、人間との接触が起こるのではないかということです。このような関係性、いわゆる、鶏と卵のどちらが先に発生したのかという、因果律と呼ばれる問題は、プラズマ物理の分野でも見つかっており議論になっています。それは、プラズマの「乱れ」が先か「流れ」が先かという問題です。
磁場で閉じ込められたプラズマの中には、水の中と同じように、流れや乱れが発生します。乱れが発達すると、大きな渦がたくさんできて「乱流」と呼ばれる状態になり、プラズマの閉じ込めが悪くなります。この乱れは、「シア流」と呼ばれる流れによって抑制されると考えられています。シア流は流れの速いところと遅いところがある流れであり、この場所による流速の違いによって大きな渦が引き伸ばされ、ちぎれることで乱れが抑えられます。一方、乱れそのものからも流れが発生することが理論的に示されています。これによると、乱れが強くなると流れが速くなり、流れが速くなると今度は乱れが弱くなる、ということになります。
では、「乱れ」と「流れ」はどちらが先に発生するのでしょうか?
プラズマの閉じ込めが良くなると、プラズマの圧力が局所的に高くなり、その付近の圧力勾配が強くなります。すると、急勾配の高い山の斜面に沿った川の流れが速くなるように、プラズマの流れも速くなります。そして、圧力の勾配の強いところと弱いところがあるので、場所によって流速の異なるシア流が発生します。一方、圧力勾配が強くなると、プラズマが不安定になって乱れが大きくなる場合があります。つまり、プラズマの閉じ込めが良くなって圧力勾配が強くなると、「流れ」と「乱れ」の両方が大きくなる可能性があるのです。そこで、どちらが先に大きくなるのかを、大型ヘリカル装置(LHD)で調べました。
これを調べるためには、プラズマの乱れの強さと流れの速さとを同時に計測する必要があります。LHDでは、最近、周波数コムを用いた計測器(詳細については、バックナンバー296をご参照ください)を開発しました。この計測器は、プラズマの中の複数の位置における乱れの強さと流れの方向・大きさを同時に計測することができます。そこで、今回、LHDでは、プラズマの加熱パワーを調整することで、プラズマの閉じ込め性能が良い状態(Hモードと言います、Hはhighの意味)と通常の状態(Lモード、Lはlow)を行ったり来たりするようなプラズマを生成して、その特性を調べてみました。他の装置を用いた研究などから、Hモードになる時はプラズマ周辺部の圧力勾配が強くなり、シア流が大きくなっていることが知られていましたが、LHDでの実験の結果、Hモードになる時は先に乱れが強くなる場合と、先に流れが速くなる場合のどちらのケースもあることが新たに分かりました。また、その二つのケースのどちらになるかは時間によっても異なり、これをプラズマが自発的に切り替えていることも分かりました。さらに空間構造を調べると、どちらのケースであるかがプラズマ中の場所によっても異なっているという、これまでの予想を超えた現象も発見しました。このように、プラズマ物理の未解決問題である乱れと流れの因果律の解明を目指して研究を進めています。

以上

プラズマ中の乱れの強さと流れの速さの時間変化。同じ場所のプラズマの乱れと流れを3つの異なる時間帯で計測し、時間帯毎に赤、緑、青線で表しています。赤の時間帯では、先に流れが強くなっています。青の時間帯は、先に乱れが強くなっています。プラズマはこの切り替えを自発的に行っています。

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