世界初、骨の無機成分と同組成の人工骨の開発・実用化に成功

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歯科用インプラント治療で使用可能な人工骨として国内初の薬事承認

平成30年2月15日  株式会社ジーシー 国立大学法人九州大学
国立研究開発法人科学技術振興機構 国立研究開発法人日本医療研究開発機構

ポイント

  • 骨の無機成分(炭酸アパタイト)と同じ組成の人工骨を世界で初めて開発
  • 歯科用インプラントの周囲を含む領域でも使用可能な人工骨として国内で初めて薬事承認
  • 国内の3医療機関で治験を実施し、有効性及び安全性を確認
  • この成果によって、歯科用インプラント治療における患者負担の軽減、適応症例の拡大が期待される

国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)の医療分野研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)において、株式会社ジーシー(開発管理責任者:熊谷知弘研究所所長)、国立大学法人 九州大学(代表研究者:石川邦夫教授)らは世界で初めてとなる骨の無機成分(低結晶性炭酸アパタイト)と同組成の人工骨「ジーシー サイトランス グラニュール」を開発し、この度、国内では初めて歯科用インプラントの周囲を含む領域でも使用可能な人工骨として薬事承認(2017年12月14日承認)されました。

研究開発の背景

これまでは、病気や事故により失われた骨を回復させる骨再建術においては、安全面、治療効果の面から患者本人の骨(自家骨)の移植が優先選択されてきましたが、一方で、自家骨移植は、自家骨を採取する部位に侵襲が加わるため、患者は大きな負担を強いられてきました。また採取できる自家骨の量にも限度があり、近年ではこれに替わる機能性の高い人工骨の開発が望まれていました。

人工骨には、他家骨(他人の骨、国内では認められていない)、異種骨(動物由来の骨)、合成骨(化学合成された骨)の3種類があります。他家骨、異種骨は生物由来原料を用いているため安全性の確保が課題とされ、合成骨は安全性を確保しやすい反面、治療効果の面で課題があるとされてきました。

研究開発の成果

九州大学の石川邦夫教授らは骨の無機成分の成分分析を行い、骨の無機成分はハイドロキシアパタイトのリン酸基の一部が炭酸基に置換された炭酸アパタイトであることを確認しました(図1)。さらに、顆粒状の炭酸アパタイトの合成方法はこれまで確立されていませんでしたが、炭酸カルシウムを前駆体とし、リン酸塩水溶液中での溶解析出反応*1による組成変換を行うことで、炭酸アパタイト顆粒を完全人工合成する方法を世界で初めて見出しました。


図1. 骨の組成
骨の約70%は無機成分であり、無機成分は炭酸基を含む炭酸アパタイトである。

粉末状の炭酸アパタイトは、各種製造法が明らかとなっていましたが、粉末状の場合、体内に移植した際に炎症を惹起するため、臨床応用できないという問題がありました。本研究は炭酸アパタイトが熱力学的に安定相であることに着目し、ブロックや顆粒状の炭酸カルシウムを溶解析出反応によって組成変換することで、形状を保持したまま炭酸アパタイトに変換させることに成功しました(図2)。


図2.形状の異なる炭酸アパタイト
左から粉末、ブロック、顆粒の炭酸アパタイト。

成果の内容

本開発プログラムでは、株式会社ジーシーが前述の九州大学の石川邦夫教授の成果をもとに実用化を行い、独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)の公的相談制度を用いて得た助言の下に実施した非臨床試験、および国立大学法人 徳島大学病院(宮本洋二教授)、国立大学法人 東京医科歯科大学歯学部附属病院(春日井昇平教授)、国立大学法人 九州大学病院(古谷野潔教授)で行われた多施設共同臨床試験(治験)において、炭酸アパタイト顆粒の医療機器としての有効性および安全性が実証されました。

炭酸アパタイト顆粒は、骨の無機成分と同じ組成のため、生体内において骨に置換できることが示されました。これらの結果により、株式会社ジーシーは、歯科領域では国内初となる歯科用インプラントの周囲を含む領域で使用が可能な人工骨として、炭酸アパタイト顆粒製品の承認を得ることができました(図3)。


図3. 製品外観
炭酸アパタイト顆粒「サイトランスグラニュール」の製品外観。
S(粒径0.3~0.6 mm)とM(粒径0.6~1.0 mm)がある。

成果の詳細説明

この技術を用いて製造された炭酸アパタイト顆粒は、各種試験において効率的に骨に置換されるという性能を示しました。国内の3施設で行われた治験では、上顎の臼歯部の歯科用インプラント埋入に際し上顎洞底挙上術*2が適応となる患者を対象に、臨床試験が実施されました(22症例)。

上顎洞底挙上術1回法群(炭酸アパタイト顆粒の移植と歯科用インプラントの埋入を同時に行う術式)と上顎洞底挙上術2回法群(炭酸アパタイト顆粒の移植を先に行い、術後6ヵ月以降に同部位に歯科用インプラントを埋入する術式)を合わせての治療成功率を算出した結果、主要評価項目(トルク負荷をかけた際の歯科用インプラントの動揺の有無、歯科用インプラントの埋入トルク)全てにおいて、有効と判断される基準を上回っていたことが確認されました。

また、1回法群でのパノラマ・エックス線画像により、歯科用インプラント周囲に炭酸アパタイト顆粒もしくは新生骨による不透過像が認められ、2回法群でのCT画像により、垂直的残存骨量の増加が確認されました。加えて組織生検により、2回法群の全症例で新生骨の形成が認められました(図4)。


図4. 治験による検証結果
治験症例(術後7ヵ月)のCT画像(前頭断)(左図)。材料の骨置換が進んでいる。治験患者の術前と術後7ヵ月の骨の厚さの平均値推移グラフ(中図)。炭酸アパタイト顆粒を用いることで骨の薄かった部位(術前:3.4 mm)が厚くなり(術後7カ月:10. 5 mm)、歯科用インプラント埋入が可能となった。術後8ヵ月の骨生検の病理組織像(右図)。炭酸アパタイト顆粒(白色)の周囲に隙間なく新しくできた骨(緑色)や類骨(赤色)が形成されていることが確認された。

今後の展開

本開発成果により、世界で初めて合成炭酸アパタイトが医療の分野で用いられることになります。また、これまで歯科用インプラント治療において日本で薬事承認された人工骨がなかったため、自家骨を用いざるを得ない状況でしたが、今後は炭酸アパタイト顆粒を用いることが可能となります。

自家骨採取が不要になることで患者への侵襲が減り、医療従事者側の負担軽減にもつながると期待されます。高齢者など自家骨採取が難しかった患者や、骨が不足しているために歯科用インプラント治療が受けられなかった患者にも適応が拡大され、今後、国民のQOL向上に寄与することが期待されます。

支援事業

本開発は、九州大学の研究成果(代表発明者:国立大学法人 九州大学大学院歯学研究院 石川邦夫教授)をもとに、平成21年3月25日から平成27年3月31日にかけて国立研究開発法人科学技術振興機構、平成27年4月1日から平成29年8月31日にかけて国立研究開発法人日本医療研究開発機構の医療分野研究成果展開事業研究成果最適展開支援プログラムとして株式会社ジーシー(代表取締役社長 中尾潔貴、本社住所 東京都文京区本郷3-2-14、資本金9.5億円)が事業化開発を進めたものです。

用語の解説

1 溶解析出反応:
前駆体と生成物の熱力学的安定性(溶解度など)の差を利用する反応の総称。熱力学的準安定相である炭酸カルシウムは水に溶解してカルシウムイオンと炭酸イオンとなる。その溶液内にリン酸イオンが存在するとカルシウムイオン、炭酸イオン、リン酸イオンが熱力学的安定相(溶解度が小さい)である炭酸アパタイト結晶として析出する。この溶解反応と析出反応が連続して起こり、炭酸カルシウムブロックは巨視的形態を保ったまま、炭酸アパタイトに組成変換される。
2 上顎洞底挙上術:
上顎洞(上顎の臼歯部の上部に存在する空洞、鼻腔の周囲にある副鼻腔のひとつ)が歯槽頂に近接している場合に,上顎洞粘膜と上顎洞底部骨の間にスペースを作り,歯科用インプラント埋入に必要な骨組織を増大させる方法である。上顎洞底挙上術と同時に歯科用インプラントを埋入する 1回法は、初期固定が得られることが必須である。初期固定が得られにくい場合は、骨組織の成熟を待ってから歯科用インプラントの埋入を行う 2回法が適している。

お問い合わせ先

製品に関すること

株式会社ジーシー DIC(デンタルインフォメーションセンター)お客様窓口

研究に関すること

九州大学大学院歯学研究院 教授 石川 邦夫
日本医療研究開発機構 産学連携課

JST事業に関すること

科学技術振興機構 産学共同開発部

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