肝がんがロイシン欠乏耐性を獲得するメカニズムを解明

スポンサーリンク

―慢性肝障害を伴う肝がん治療への応用が期待―
平成30年1月9日 東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構

ポイント

  • 肝がんは肝硬変など慢性肝障害を背景にすることが多く、しばしば分岐鎖アミノ酸*1(BCAA;ロイシンなど)が欠乏しますが、がん進展にあたえる影響はよくわかっていません。
  • 本研究では、ロイシンセンサー*2蛋白DEPDC5が肝がんでは不活化されており、ロイシン欠乏によって誘導されるオートファジー*3に対して強い耐性を獲得していることを世界で初めて明らかにしました。
  • 本研究の成果により、肝がんのアミノ酸代謝メカニズムを標的とした新規治療法開発への応用が期待されます。

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 分子腫瘍医学分野の田中真二教授、島田周助教、秋山好光講師、水野裕貴大学院生の研究グループは、同ウイルス制御学分野の山岡昇司教授、同肝胆膵外科学分野の田邉稔教授との共同研究で、肝がんがロイシン欠乏に対して耐性を獲得する分子メカニズムを世界で初めて明らかにしました。この研究は国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)「次世代がん医療創生研究事業」(P-CREATE)、高松宮妃癌研究基金研究助成金、文部科学省科学研究費補助金等のもとにおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌Scientific Reports(サイエンティフィック・レポート)に2018年1月 8日午前10時(英国時間)にオンライン版で発表されます。

研究の背景

肝がんの発生母体である肝硬変の患者では血中の分岐鎖アミノ酸濃度が低下することが知られています。がん細胞にとって逆境であるはずのロイシンが欠乏した状態で、肝がん細胞が増殖できるメカニズムは不明でした。本研究では、ロイシンセンサー*2であるDEPDC5遺伝子をゲノム編集法によりヒト肝がん細胞で特異的に欠失させることによって、肝がんのロイシン欠乏耐性獲得メカニズムを発見しました。

研究成果の概要

本研究チームは、ヒト肝がん細胞のDEPDC5遺伝子をゲノム編集法により欠失させた結果、ロイシン欠乏状態に対して強い耐性を持つがん細胞になることを見出しました。通常 ロイシンが欠乏すると、飢餓状態に対する細胞応答としてオートファジーによるタンパク分解が起こりますが、DEPDC5欠失肝がん細胞では、ロイシン欠乏状態でもオートファジーが誘導されないことが判りました。その結果、オートファジーで分解されるはずのp62*4タンパクが細胞内にたまり、酸化ストレスに対する耐性が強くなることが示されました(図1、3)。また、DEPDC5遺伝子を発現誘導させたヒト肝がん細胞では、逆にp62の減少にともなって酸化ストレスに耐えられなくなり、腫瘍増殖が抑制されることが判りました。ヒト肝がんの臨床症例を用いた解析でも、DEPDC5が不活化した肝がんではp62の蓄積を認め、がん再発、がん死亡が多いことを発見しました(図2)。

図3


DEPDC5が欠失すると、ロイシン欠乏反応性オートファジーが誘導されず、p62タンパクが細胞内に蓄積し、酸化ストレスに強いがん細胞になる。

研究成果の意義

本研究は、慢性肝障害をベースにした肝がんにおいて、ロイシン欠乏状態でがん細胞が増殖するメカニズムの一端を世界で初めて明らかにしました。その原因遺伝子DEPDC5は、ゲノムワイド関連解析によりC型肝炎に起因する肝がんの発生との関連も報告されています。がんのアミノ酸代謝については近年多くの発見があり、その解明による新たな治療法開発の可能性が注目されています。今回の成果もがんアミノ酸代謝における重要な発見であり、慢性肝障害を合併した肝がんにおける新規治療薬開発につながると期待されます。

用語解説

*1 分枝鎖アミノ酸
分枝のある脂肪族側鎖を有するアミノ酸で、ヒトの必須アミノ酸の一種。BCAA (branched-chain amino acid)。ロイシン、イソロイシン、バリンの3種が知られている。
*2 ロイシンセンサー
ロイシン欠乏を感知して、オートファジーを誘導するシステム。このシステムはGATOR複合体が担い、DEPDC5はその構成メンバーの1つである。
*3 オートファジー
アミノ酸の飢餓状態に対する応答として、細胞内のタンパク分解などを経て、一時的に飢餓を回避するプロセス。しかし、飢餓状態が長く続きオートファジーが進行すると、細胞死を誘導すると考えられている。
*4 p62
オートファジーにより選択的に分解される基質タンパクの1つ。酸化ストレスに対する耐性を増強し、肝がん細胞の増殖に有利に働くことが報告されている。

問い合わせ先

研究に関すること

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
分子腫瘍医学分野 田中 真二(タナカ シンジ)

報道に関すること

東京医科歯科大学 総務秘書課広報係
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45

AMED事業に関すること

国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
戦略推進部 がん研究課

スポンサーリンク
スポンサーリンク